調べもの

書評

『高校生のための経済学入門』[新版]

公開日:2024年04月10日

『高校生のための経済学入門』[新版]小塩 隆士/著 筑摩書房 『高校生のための経済学入門』[新版]小塩 隆士/著 筑摩書房

日常的に、物価が上がっているから買い物を控えた、金利が上がるのは景気が影響しているなど、何となく理解はしていてもその仕組みを説明するとなると難しいものです。

本書は経済学の入門書で、経済学の全体像をつかむことができ、経済ニュースの捉え方や見方が理解できるように意識して書かれている点が特徴となっています。また、「Tシャツを買う決め手となる要因」と「需要曲線」など、身近なことと関連付けながら丁寧に解説しています。

2002年に初版が出版され多くの読者を得ていますが、新版では、「世界に目を向ける」という章が加わり、用語も「マネーサプライ」を「マネーストック」に改めるなど、現在の経済を取り巻く状況に対応しています。

筆者は、「私たちの日常生活は、無意識のうちに経済の仕組みにどっぷりと浸かっており、しかも私たち自身の行動も経済学的に説明できる」と言います。経済全体の動きを知ることで、自分の仕事や暮らし、さらには世の中の出来事にどう影響しているのかを捉えられるのではないでしょうか。

『未来職安』

公開日:2024年03月15日

『未来職安』柞刈 湯葉/著 双葉社 『未来職安』柞刈 湯葉/著 双葉社

科学技術の発展により、今ある仕事の多くがなくなるといわれています。AI(人工知能)に奪われる仕事は何か、どう対策したらよいかという話題をよく耳にしますが、仕事がAIに代替されることで働く必要がなくなるとしたら、私たちはどうするでしょうか。

本書は、車が自動運転になり、インターネットで注文した商品はドローンが配達してくれる、そんな少し先の未来を書いたSF小説です。小説の中では、多くの仕事が科学技術の発展によって機械化され、日本の国民は、生活基本金をもらって生活する99%の消費者と働いて所得税を納める1%の生産者で構成されています。
主人公の目黒奈津と機械が苦手な副所長の大塚さん、所長の猫の2人と1匹が働く職安(職業安定所)には、様々な理由で仕事を求める人がやってきます。この職安で紹介される仕事は、ロボットが作った日本食の演出のために店に立つ仕事、あえて防犯カメラに映り込んでAIの解析を妨害する仕事など、奇妙だけれど人間にしかできないものばかりです。

ほのぼのとした日常を軽やかな文体で書いた小説ですが、AIと仕事以外にも、近年注目されているベーシックインカム(※)もテーマになっており、私たちが直面する未来について考えさせられる内容になっています。
多くの仕事がAIに代替され、生活していくためのお金が国から支給されるとしたら、自分は生産者と消費者のどちらを選ぶのか。それはなぜなのか。本書を読むことで、自分にとって仕事とは、働くとはなにかを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

※政府が性別や年齢、所得や資産を問わず、すべての国民に無条件で一定の金額を支給し、必要最低限の生活を保証する制度(『日経キーワード 2024-2025』より)

『なまえデザイン』

公開日:2024年02月15日

『なまえデザイン』小藥 元/著 宣伝会議 『なまえデザイン』小藥 元/著 宣伝会議

自社の商品やサービス、あるいは社内外で進めるプロジェクトなどのネーミングは、パッケージやパンフレット、企画書に書いた時点で完了すると思っていませんか。

名前は書くものというより生きものと考える著者は、なまえデザインとは「その先に必ずあるコミュニケーションやブランドや未来をデザインしていくことに他ならない」と言います。

本書では、名前とは何かということやネーミングに必要となる様々な発想法を解説しています。その一つに「価値ピラミッドをつくる。」という項目があり、強みや訴えたい価値を書き出しながら、順番をつけていくという方法が紹介されています。例えば、大ヒットしている冷え性の人向けの靴下「まるでこたつソックス」。メーカーが付けていた最初の商品名は「三陰交をあたためる」でした。最大の売りが何なのかを絞ってリブランディングした後、売り上げが17倍に。このように同じ商品でも名前を変えることでたくさんの人に改めてその商品を知ってもらう機会になり、数多くある商品の中から選ばれる一つになることもあります。

コピーライターとして活躍する著者の、思考プロセスを学べる一冊です。

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』

公開日:2024年01月16日

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』小林 せかい/著 祥伝社 『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』小林 せかい/著 祥伝社

未来食堂は、東京の神保町にあるカウンター12席の定食屋で、著者の小林せかい氏が一人で切り盛りしています。

日替わり定食1種類だけを提供し、夜以降は客が「冷蔵庫の在庫リスト」を見て選んだ2種類の食材と調理方法で作ったおかずも出す。1度来店した人なら誰でも50分お店を手伝うと1食分無料になる、飲み物は持ち込み自由だがお店に半分寄付する、月次決算、事業計画も公開する、など今までの飲食店にはないシステムで注目を浴びました。

このシステムは「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を作るという理念のもと、元ITエンジニアである著者が、理系的・エンジニア的思考から発案したものです。

本書は、『未来食堂ができるまで』(小学館)、『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)に続く3作目です。

著者のこれまでの経験から、飲食店に限らず「何かを始めたい方へ伝えたいこと」に焦点を当て、「考え方」「やり方」「続け方」「伝え方」「人を動かす瞬間」について具体的に説明しています。また、「注目を集めた時に気を付けたいこと」についても述べています。

何かを始めたいと思っている方や、1歩を踏み出せずに悩んでいる方に、参考になるメッセージが詰まっている本です。

『道をひらく』

公開日:2023年12月15日

『道をひらく』松下 幸之助/著 PHP研究所 『道をひらく』松下 幸之助/著 PHP研究所

毎年、数多くのビジネス書が出版されますが、数年経つと絶版となってしまうケースが多い中で、ロングセラーになる本が存在します。1968年に出版され、累計発行部数が550万部を超えているこの本もその1冊です。

著者は、大正・昭和期の実業家、松下電器産業株式会社(現在のパナソニック)の創立者であり、「経営の神様」と評された松下幸之助氏。

本書は、1946年に著者が設立したPHP研究所の機関誌として発行された「PHP」の裏表紙の連載の短文の中から選んだ121編をまとめたものです。

自分には自分だけに与えられた道があり、たとえどのような道であろうとも自分の道を休まずに歩み続けることの大切さを説いた冒頭の「道」を始め、仕事や人生について、著者の思いが綴られています。

現在の社会事情等に合わない部分もありながら、時代や世代を超え、決して色あせることなく今もなお読み継がれているのは、著者の人生観から紡がれる言葉の一つ一つが読み手の心に届くからでしょう。ロングセラーとなる本の魅力を感じてみませんか。
 

『土と人と種をつなぐ広島』

公開日:2023年11月15日

『土と人と種をつなぐ広島』花井 綾美/著 一般社団法人むすぶ広島 ザメディアジョン(発売)   『土と人と種をつなぐ広島』花井 綾美/著 一般社団法人むすぶ広島 ザメディアジョン(発売)  

広島の伝統野菜で、思い浮かぶ野菜はありますか?

伝統野菜とは、主に日本各地で古くから栽培されてきた地方野菜のことを言うそうです。
その種類は、広島菜をはじめ、広島おくら、祇園パセリ、矢賀ちしゃ、なかすじ春菊、笹木三月子大根(ささきさんがつこだいこん)などがあり、著者の花井綾美氏は「広島のおたから野菜」と呼んでいます。

この本は、広島の農業の現場と消費者をつなぐ活動をするために一般社団法人「むすぶ広島」を設立した著者が、伝統野菜の生産現場を取材し、栽培の歴史、野菜の特徴、生産者の思いや工夫、調理法などを紹介しています。

代表的な日本三大漬け菜として知られる「広島菜」は、安佐南区川内地区の農家が育て種を継いでいます。都市化で農地が減り、農家の高齢化が進む中で伝統を受け継ごうと、若い農家のグループが2015年に活動を始めました。この「川内若農家の会」のメンバーへのインタビューでは、広島菜を受け継ぎどう次世代へつなげていくか、様々なアイデアや取組を話されています。

他にも、安佐南区祇園地区で栽培されている「祇園パセリ」をその名と伝統の品質を守るために名称の商標登録をしたり、呉市広地区で約50年前まで栽培されていた「広甘藍(ひろかんらん)」を地域の活性化を図るために復活させ、ブランド化に着手するなどの例が紹介されています。

食の豊かさを支える農業の大切さに気づく1冊です。

『 実践 自分で調べる技術』

公開日:2023年10月15日

『 実践 自分で調べる技術』宮内泰介/著 上田昌文/著 岩波書店 『 実践 自分で調べる技術』宮内泰介/著 上田昌文/著 岩波書店

私たちの身の回りにはたくさんの情報があふれています。インターネット上にはフェイクニュースなど真偽の判断が難しい情報が多数存在し、テレビの情報番組では同じテーマでも解説者の立場によって内容が異なることがあります。このような社会で自分自身が納得できる判断をするために、正確な情報を調べるにはどうしたらよいのでしょうか。

本書は、専門家ではない「市民による調査」を想定し、1.調べるときの基礎である文献・資料調査、2.現場で見聞きして実態を探るフィールドワーク、3.統計学や疫学の考え方を用いたリスク調査、4.収集した情報の整理からアウトプットの順に「ちゃんと調べる」道筋を解説しています。この中では、データベースの使い方、統計の探し方、聞き取りの方法やメモの取り方などの技術が具体例を交えて分かりやすく紹介されています。また、各テーマの解説の後に練習問題があり、学んだことをすぐ実践することでより理解を深めることができます。

仕事に必要な情報を収集する、商品のプレゼンテーション資料を作成するなど色々な「調べる」場面において、この本が確かな情報を手に入れる助けになるでしょう。

『"捨てるもの"からビジネスをつくる』

公開日:2023年09月15日

『 『"捨てるもの"からビジネスをつくる』山上 浩明/著 あさ出版

著者が代表取締役を務める「山翠舎」は、古木(古材)を使った建築物の設計と施工、古民家の買い取りと再生、飲食店開業支援事業などを主に手掛ける、従業員数25人の企業です。

古民家は地方に残っている貴重な財産であるという考えのもと、「捨てるものに価値を見出し高め、再定義して再び世に送り出す=アップサイクル」と、「人を巻き込み、地域を巻き込み、経済を循環させる=サーキュラー(循環)」をビジネスの柱にしました。その中でも「古民家・古木サーキュラエコノミー」と名付けた取り組みは評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

本書では、自社の強みを生かし地域に良い循環をつくっていくことの重要性、地方都市だからこそメディアや行政の注目度が高いなどビジネスに有利な点などが書かれています。また、ビジネスの拡大・循環を加速させるために人を巻き込んだ様々な事例も紹介されています。

地域に求められる企業のあり方を考えるうえで、町づくりへの貢献やサステナブルなビジネスに関心のある方におすすめです。

『仕事にしばられない生き方』

公開日:2023年08月17日

『仕事にしばられない生き方』ヤマザキマリ/著 小学館 『仕事にしばられない生き方』ヤマザキマリ/著 小学館

映画にもなった漫画『テルマエ・ロマエ』の作者、ヤマザキマリさんが、自身の体験を基に、自身が漫画に描いた古代ローマ人プリニウスや、スティーブ・ジョブズの生き方にも触れながら、仕事やお金の向き合い方を語った本です。

40代前半で「テルマエ・ロマエ」が大ヒットするまでに、彼女が就いた仕事は漫画家だけではありません。17歳で留学したイタリアなど海外、また日本で文字どおり生きるために働くしかないという生活の中で、様々な仕事を経験し、本人曰く「10足のわらじ」を試したこともあるというほどだそうです。

漫画家としての成功を手に入れた後も、昼も夜もなく仕事に没頭することによる過労、またパートナーとの関係悪化や出版社への不信感など、心身ともにままならない状況に陥ったなか、どうやってこれらを乗り越えていったのか。

お金を稼ぐことの大変さや仕事の奴隷となることの怖さを知るヤマザキさんは、「こだわっていたものを思い切って手放してみると、それまで見えていなかったもの、見ようとしていなかったものが見えてくる。」また、「大きなものに飲み込まれてしまいそうな時は、あらゆる電源をいったんオフにすることをお勧め」すると述べています。

仕事に疲れているとき、何のために働いているのかと疑問に思うときなどに、ぜひ手に取ってみてください。

『水道を救え』

公開日:2023年07月15日

『水道を救え』加藤 崇/著 新潮社 『水道を救え』加藤 崇/著 新潮社

「蛇口をひねっても水が出ない――。」水道普及率98%を超えていると言われる日本で、近い将来そのような事態に陥ると聞いてもすぐには信じられないかもしれません。

日本の水道は、すでに耐用年数を超えている水道管が多く存在するにも関わらず、更新が老朽化に追いついておらず、今、崩壊の危機にあると著者の加藤崇氏は指摘します。

全国に張り巡らされている水道管の更新を、優先順位を誤らずに効率的に進めていくにはどうすればよいか。著者はこの問題を解決するために、AIを使って、水道管の素材だけでなく、形状や埋まっている土壌、その地域の天候などの情報を基に老朽化による破損時期を予測することで、交換すべき水道管を見極めるソフトウェアを開発し、アメリカで水道ビジネスに参入します。そして、「水道の救世主」となるべく日本やイギリスなど世界に事業を拡げていきます。

ロボット技術系のベンチャーを起業し、米グーグルに売却をした実績を持つ著者は、「新しいテクノロジーは、古い産業で活用されてこそその真価を発揮する」と述べます。私たちの身の回りに当たり前のようにあるものに関心を寄せることが、新たなビジネスチャンスにつながっていくことを感じさせる1冊です。