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書評

『はじめの一歩を踏み出そう 成功する人たちの起業術』

公開日:2017年07月21日

『はじめの一歩を踏み出そう 成功する人たちの起業術』マイケル・E・ガーバー/著 原田喜浩/訳 世界文化社 『はじめの一歩を踏み出そう 成功する人たちの起業術』マイケル・E・ガーバー/著 原田喜浩/訳 世界文化社

この本は、2001年に刊行された『The E-Myth Revisited 』の邦訳です。世界20か国で翻訳され、ビジネス書のベストセラーとなりました。
スモールビジネス(優良な中小企業やベンチャー企業を呼ぶ新たな名称)向けの経営コンサルティング会社を創設し、25,000社以上のコンサルティング経験を持つ著者が、実際に助言を続けてきた女性経営者をモデルに、スモールビジネスと経営者に対する基本的な考え方について、対話形式で提示しています。

経営者"サラ"は、パイづくりの専門家として仕事をしていましたが、当時働いていた店に不満があり、起業を決意し、パイ専門店をオープンさせました。店を開けば自由が手に入り、だれにも指図されずに大好きなことを仕事にできると思っていたのに、3年たち、店の経営が思うようにいかず、ぐったりと疲れていました。

そんなサラに、著者は「起業家には、『起業家』、『マネージャー』、『職人』という三つの人格があり、三つのバランスが取れた時に驚くような能力を発揮できる。しかし、スモールビジネスの経営者の多くは職人タイプであり、職人の視点しか持てないために経営の難しさに直面する傾向にある。」と言います。パイを焼くことが大好きで起業したサラも、まさにこのタイプでした。
サラは、将来構想の描き方や事業に対する考え方、組織やシステムの作り方などについて、段階にそって具体的なアドバイスを受け、その実践をとおして力をつけていきます。

「この本は単なる成功のための処方箋ではない。学びのための招待状である。私たちは、収益性と人間性を両立させながら経営する方法を学ばなければならない」という著者の言葉どおり、起業を志す人だけでなく、社会で働くすべての人に対しても多くのメッセージがあります。
この本を読んで、サラと一緒に悩みながらも少しずつ成長し、サラのように、はじめの一歩を踏み出してみませんか。

『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』

公開日:2017年06月17日

『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』永井 孝尚/著 SBクリエイティブ 『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』永井 孝尚/著 SBクリエイティブ

著者の永井孝尚氏は、シリーズ累計60万部を突破した『100円のコーラを1000円で売る方法』や『そうだ、星を売ろう 「売れない時代」の新しいビジネスモデル』などの著者です。2013年に日本IBMを退社して、マーケティング思考を日本に根付かせることを目的にウォンツアンドバリュー株式会社を設立し、専門用語を使わずにわかりやすい言葉でマーケティングの本質を伝えることをモットーとして活動しています。

著者は「マーケティングとは、『頑張らなくても売れる方法』を整理して、誰もができるようにした考え方」であり、そのことを知らずに無駄な努力をしている人が世の中には多いと言います。

たとえば、「人はベンツを買った後どうしてベンツの広告を見てしまうのか」では、人は高い買い物をした後に買ってよかったのかどうか不安になり、その不安が解消されると継続して「顧客」になるという現象「認知的不和の解消」でありメルセデス・ベンツ社はこの手法をうまく利用していると紹介しています。

また、「あの行列のプリン屋が赤字の理由」では、いつもすぐに売り切れる150円のプリン屋の店長が休みの日に何をしているのかという事例から、事業を継続していくための価格戦略の考え方を説明しています。

「女性の太った財布には、何が入っているのか」では、女性は安く買うことが大好きで、クーポンを活用しているために財布が膨らんでいる。しかしリサーチからそのクーポンは期限切れになっていることが多く、「他店期限切れクーポン作戦」を実施して話題になったという事例から、消費者の購買意欲を喚起するというプロモーション戦略について紹介しています。

身近な疑問からはじめて、具体的にマーケティングの理論がいつの間にか自然にわかると著者の言うとおり楽しく学ぶことができます。ぜひ読んでさまざまな場面で活用されてみてはいかがでしょうか。

『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』

公開日:2017年05月18日

『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』福里 真一/著 日本実業出版社 『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』福里 真一/著 日本実業出版社

テレビを見ていると様々なCMが自然と目に入ってきます。その中でサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、ENEOS「エネゴリくん」など、誰もが一度は見たことがあり、どこか優しい雰囲気があるCMを手掛けているのが著者の福里真一さんです。

人気シリーズをたくさん手がけているCMプランナーなら、アイデアも次々と湧き出て、さぞかしプレゼンテーションも得意な方なのだろうと想像してしまいます。

ところが、福里さんはグループの中心にいるというよりは、集団から少し離れたところからみんなのことを見ている、コミュニケーションが苦手な「電信柱の陰から見てるタイプ」で、企画に関しても、「自分には才能がない」と自らについて書いています。

数々のヒット作の誕生の話、プレゼンテーションの時の心構えなど、自身の体験を基に福里さんと話しているかのような自然な語り口で綴られています。

また、企画、プレゼンテーションだけでなく仕事への取り組み方、苦手な仕事との向き合い方の参考にもなります。

仕事に少し行き詰った時、上手くいかないなと感じた時、等身大の自分でよいという著者の言葉には、気持ちが前向きになるヒントがたくさん詰まっています。

『人工知能と経済の未来-2030年雇用大崩壊-』

公開日:2017年04月18日

『人工知能と経済の未来-2030年雇用大崩壊-』井上 智洋/著 (文春新書) 文芸春秋 『人工知能と経済の未来-2030年雇用大崩壊-』井上 智洋/著 (文春新書) 文芸春秋

iPhoneの音声操作アプリ「Siri」や、車の自動運転システム等、周りを少し見渡せば、私たちの生活には人工知能が多く活用されています。

このように人工知能がどんどん発達し、人間の能力を超える時、多くの仕事が機械に取って変わられることが予想されます。

この本では、なんと「今から30年後の2045年くらいには、全人口の1割ほどしか労働していない社会になっているかもしれません。」と予測しています。

この本の著者は、人工知能と経済学の関係を研究するマクロ経済学者の井上智洋氏です。

未来はどうなってしまうのでしょうか。機械が機械を作る工場を運営する一部の資本家と、人工知能では及ばない仕事をする一部の労働者のみが生き残るのでしょうか。

著者は、まず、蒸気機関を生産の現場に持ち込んだことで起こった第一次産業革命から、コンピュータ、インターネットの普及が契機となった第三次産業革命までの人と機械の歴史を紐解くところから始め、今後IoT(アイオーティー)や汎用人工知能で引き起こされるであろう第四次産業革命がどのようなものになるのかを、わかりやすい言葉で丁寧に解説しています。そして、ほとんどの労働がなくなるという、これまでとは比にならない変化を迎えた時、全ての人の生活を維持するために「ベーシックインカム」(最低限の生活費を給付する)制度を導入すべきだと主張します。

「おわりに」のことばに「機械の発達の果てに多くの人間が仕事を失います。役立つことが人間の価値の全てであるならば、ほとんどの人間はいずれ存在価値を失います。したがって、役に立つと否とにかかわらず人間には価値があるとみなすような価値観の転換が必要となってきます。」とあります。

遠くない将来にやってくるであろう現実と向き合うため、私たちは自分の仕事だけではなく、人間とは何かについても考え、社会全体でその時に備える必要がありそうです。

『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』

公開日:2017年03月15日

『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』池上 彰/著、竹内 政明/著 朝日新聞出版 『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』池上 彰/著、竹内 政明/著 朝日新聞出版

文章を書き、人に伝えるということを、悩ましく感じる方が多いのではないでしょうか。

この本は、テレビや本で多くの人に「なるほど」と納得させて引き込む解説をする池上彰氏と、「読売新聞の一面を下から読ませる」といわれる読売新聞コラム「編集手帳」を15年間書き続けている竹内政明論説委員との文章術対談です。

元NHK記者で、原稿を書くのが本業である池上氏が、どうすればいい文章が書けるのかと試行錯誤を繰り返すなか、展開が巧みで興味をそそる文章を書く竹内氏にコツを聞きたいというところから、この対談は始まっています。

「編集手帳」や、池上氏の著作文、井上靖氏、向田邦子氏などの文章を例に挙げながら、テーマの決め方、構成方法、本当に伝わる表現方法など、両氏が長い経験から培ってきた様々な職人の技を惜しみなく披露しています。

文章を書くために必要な準備として、「『部品』を集める感覚で知識をストックする」ことや、「とにかく削る練習をする」、「いい文章は繰り返し書き写す」など具体的に文章力を磨くために実践していることが紹介されています。

文章を書くことを生業としている方たちは、悩みもなくすらすら文章を書かれているのかと思いがちですが、本当に悩み苦しみながら何度も試行錯誤しながら文章を書かれていることがこの本から伝わります。
ぜひ読んで実践しビジネスの場面で活用されてみてはいかがでしょうか。

『町の未来をこの手でつくる 紫波(しわ)町オガールプロジェクト 』

公開日:2017年03月09日

『町の未来をこの手でつくる 紫波(しわ)町オガールプロジェクト 』猪谷 千香/著 幻冬舎 『町の未来をこの手でつくる 紫波(しわ)町オガールプロジェクト 』猪谷 千香/著 幻冬舎

岩手県紫波町は、全国的に有名な名勝景勝もない、人口34,000人ほどの全国どこにでもある町でした。1985年以降、年少人口の減少と老年人口の増加が続き、生産年齢人口も緩やかな減少傾向となり、財政も縮減するとの予想もされていました。

ハフィントンポスト日本版記者である著者がこの町を訪れたのは2014年の夏で、その目的は、2年前の2012年夏にオープンし、独自の「農業支援サービス」を展開していた図書館への取材でした。JR紫波中央駅に降りると、何年も手つかずになっていた東京ドーム2つ分ほどの空き地に「オガール(成長するという意味の造語)広場」ができ、大勢の人が集まって楽しそうに過ごし、なんと年間90万人の人が訪れる「まち」になっていました。

なぜ紫波町はこれほどまでに生まれ変わったのでしょう。この本では、2007年から10年近い年月をかけた、補助金に頼らない「公民連携」のまちづくり計画「オガールプロジェクト」を、この計画のきっかけをつくった民間側の推進者や大きな英断を何度も下した町長など、計画に携わった人々へのインタビューをもとに紹介しています。
 
彼らは、「商店街の活性化や区画整理、道路の敷設や施設の建設で町が良くなるのではない」「人が、ここに住んでよかった、ここだったら住みたい、ここだったら生涯を終えてもいい......と思えるような町にしたい」という思いを持ち、「人間中心のまちづくり」を進めてきました。そして今や人々が広場に集い、地産地消をシステム化し、経済的な自立と同時にエネルギーの自立を目指した取り組みで、政治家や自治体関係者、まちづくりに携わる人の注目を集める町になったのです。

この本を読むと、紫波町の未来を賭けた独自の計画によってつくられた「オガール広場」に行って町の雰囲気を感じたくなります。そして、自分の住む町を見つめなおすきっかけにもなりそうです。この機会にぜひ、手に取ってみてください。

『究極の体調管理 ~人生を変えるハイパフォーマンス計画~』

公開日:2017年01月17日

『究極の体調管理 ~人生を変えるハイパフォーマンス計画~』鈴木 登士彦/著 日本実業出版社 『究極の体調管理 ~人生を変えるハイパフォーマンス計画~』鈴木 登士彦/著 日本実業出版社

寒い日が続きますが、風邪など引かれていませんか。

これは、「運動」「食事」「呼吸」「休息」の4つの観点から、健康な心身を得て「肉体のハイパフォーマンス化」を図るために有効なメソッドを紹介した本です。

「運動」といっても、特別な機器を使ったり、ジムに通ったりすることではなく、正しい立ち方や正しい歩き方、通勤中や仕事中にできる簡単な筋トレ方法など、日常の動きを意識することに重点をおき、それを習慣づけることで健康になることを目指しています。また、「呼吸」の章では緊張などからくるストレスダメージをコントロールする呼吸法のほか、「場を支配する呼吸」「場を和らげる呼吸」など、ビジネスシーンで実際に役立ちそうな呼吸法も記されています。

「同じレベルの実務能力と、人間性と、運を持った二人がいたとしたら、成功するのは、間違いなく体力がある人の方です。」と著者は言います。

人生の重要な場面で体調を崩してしまっては、それまでの努力も水の泡。そうならないためにも、日ごろの生活を見直して、強い心身を作っていきたいものです。

『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』

公開日:2016年12月15日

『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』森川 亮/著 朝日新聞出版 『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』森川 亮/著 朝日新聞出版

「いまの日本に一番足りないものは何だと思いますか。」
と著者の森川亮氏は問いかけます。

そして、それは「起業」であり、起業は日本を元気にし、人間らしさを取り戻すと言います。ベンチャー企業による起業だけではなく、既存の企業のなかで新たな価値を生み出そうとするのもまた、ひとつの「起業」の形です。世界は進化し続けるので、古いものにしがみつかず、新しい価値の創出が日本の活性化につながる。また本当にやってみたいことがあるにもかかわらず、組織のしがらみにからめとられて動き出せないというのではもったいなさすぎる。自分を押し殺して、会社に尽くす「我慢」が美徳とされた時代は終わりを告げていると考えているからです。

森川氏は、2000年にLINE株式会社をやめ、起業しています。

この本は、著者のこうした経験に基づき、起業を成功させるために未来価値の高い事業は何なのか、社会から共感を得るために何が必要なのか、ビジネスパートナーをどう選ぶか、資金調達をどうするのかなど、具体的に書かれています。起業をむやみに勧めるのではなく、人によって向き、不向きがあり、つらい側面があると断言しながらも、「起業の醍醐味は社会に認められること」で、起業の喜び、楽しさについて多くふれています。著者が注目している起業家3人との対談では、日本の企業環境がリアルな姿でわかります。

同じ志を持つ起業家、もしくは人生を変えたいビジネスパーソンにおすすめの一冊です。
ぜひ読んで、自ら行動するヒントにしてみませんか。

『ドリルを売るには穴を売れ』

公開日:2016年11月18日

『ドリルを売るには穴を売れ』佐藤 義典/著 青春出版社 『ドリルを売るには穴を売れ』佐藤 義典/著 青春出版社

「マーケティングの基礎をわかりやすく説明している、良い本はありませんか?」

経営コンサルタントである佐藤氏はよくこの質問を受け、最良の1冊を選ぶのに困っていたそうです。この本は、その問いに応えるため、著者が行ったマーケティングセミナーの内容を元に書かれています。

この本の内容は、第一章「あなたは何を売っているのか?-ベネフィット」、第二章「誰があなたの商品を買ってくれるのか?-セグメンテーションとターゲット」、第三章「あなたの商品でなければならない理由をつくる-差別化」、第四章「どのようにして価値を届けるか?-4P(価値を実現するための製品・価格・販路・広告)」、第五章「強い戦略は美しい」の5章からなり、各章の後半にはある会社の企画室新人社員が廃業に追い込まれたイタリアンレストランを復活させる成長物語があり、マーケティングの本質をわかりやすくイメージできるようになっています。

著者は、マーケティングとは「顧客に関するすべてのこと」で、市場調査、広告制作、営業戦略など「売ることに関するすべてのこと」であり、「売る人」があれば反対に必ず「買う人」がいる、当たり前のことだがこれがポイントであると言っています。そして、「なぜこの商品を買ったのか」「なぜこの店で買ったのか」と買う立場で考える「マーケティング脳」を常に持つこと、これがビジネスアイディアにつながると書いています。

『ドリルを売るには穴を売れ』。この書名は、ドリルを買う人は単にドリルが欲しいのではなく、ドリルを使って開ける穴に商品価値を求めており、その価値が求めている以上のものであれば買うという行為につながることを意味し、マーケティングを語るときによく使われる言葉のようです。

2007年が初版ですが、2016年には12刷で増刷されており、現在でも色あせることなく読まれている本のようです。マーケティングに限らず、新しいアイディアを求められるビジネスマンにおすすめの一冊です。ぜひ読んでみてください。

『人が集まる建築』

公開日:2016年10月18日

『人が集まる建築』仙田 満/著 講談社 『人が集まる建築』仙田 満/著 講談社

広島東洋カープが25年ぶりのリーグ優勝を果たしましたね。

この本の著者は、新広島市民球場を設計した環境建築家の仙田満氏です。

新広島市民球場はご存じのとおり、野球を知らない人でも楽しめる「ボールパーク」として、多くの入場者を呼び込んでいます。

著者は、新球場をデザインするとき、人を集め、楽しませるために「遊環構造」という氏が生み出した設計手法を用いました。「遊環構造」とは、こどもが元気で健全に育つためには、楽しく生きるための時間を有意義にすごす空間が大切であるという理念に基づいたものであり、この空間は、こどもはもちろんのこと、あそびのタイミングにはこども心を取り戻す大人にも必要な要素であるということです。

この本では、「ゆうゆうのもり幼保園」や「国際教養大学中嶋記念図書館」、「西武春日井ショッピングセンター」の事例等、自身のこれまでの仕事を振り返りながら、都市、地域、土木的構築物からインテリア、展示、遊具、家具等の環境を設計、デザインする「環境建築」という考え方や、「遊環構造」という手法に行き着いた経緯を解説するとともに、未来を創るための環境建築のあり方を示しています。

著者は、「すべてのこどもに幸せなこども時代を過ごすことができる環境をつくることに、これからも最大の努力をしていきたいと考えている。多くの人が集まり、こどもも大人も町も元気な環境をつくっていきたい。」と述べます。

こどもも大人も集まり、広島の町を大いに盛り上げた広島東洋カープの優勝。新球場に込められた願いがその大きな役割を果たした瞬間だったのだとこの本を読んで感じました。