調べもの

書評

『本屋で待つ』

公開日:2023年06月15日

『本屋で待つ』佐藤 友則/著 島田 潤一郎/著 夏葉社 『本屋で待つ』佐藤 友則/著 島田 潤一郎/著 夏葉社

広島県庄原市にあって、全国から注目されている書店「ウィー東城店」を営む佐藤友則氏が共著で出版した本です。

佐藤氏は父親が始めた店を引継ぐために、まず他書店で修業。お客さんひとりひとりの姿がすべて勉強になること、また、従業員はどうすればいきいきするかなど、書店経営の基礎を一から学びます。2001年に引き継いだ当時、経営赤字や従業員との軋轢などによる評判の悪さなどを抱える中、地域からの信頼を得るために徹底したのが店頭での「ご用聞き」でした。さまざまな声をヒントに、年賀状の宛名印刷サービスや美容室など、みんなの「困りごと」からはじめた複合化の取り組みによって経営を立て直します。そして地域の人々が様々な相談を持ち込む、信頼される場所となっていきます。

また、不登校や引きこもりがちなど社会になじめない若者との出会いから、彼らをアルバイトとして雇い見守りながら共に成長し粘り強く支えていきます。その秘訣は本のタイトルにある「待つ」ということだそうです。

町の人に寄り添いたいという強い思いを持ち、悩みながら様々なチャレンジを試みてきた書店のストーリーを、ぜひ手に取って読んでみてください。

『いま世界の哲学者が考えていること』

公開日:2023年05月16日

『いま世界の哲学者が考えていること』岡本 裕一朗/著 ダイヤモンド社 『いま世界の哲学者が考えていること』岡本 裕一朗/著 ダイヤモンド社

哲学と聞いて、「人生とは何ぞや?」といった問いを考えたり、著名な哲学者の説を研究したりする「儲からない」「役に立たない」学問というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、近年、ビジネスの世界で哲学的思考が注目されています。

本書では、21世紀の哲学者が何を考えているのかについて、6つのテーマで紹介されています。「IT革命は、私たちに何をもたらすか?」「私たちを取り巻く環境は、どうなっているか?」などのテーマは、今私たちが社会で直面している出来事そのものです。

「第3章第2節 クローン人間は私たちと同等の権利をもつだろうか」では、クローン人間の禁止に疑問を呈する科学者、生命倫理学者と、人間に対する遺伝子操作などを規制すべきとする哲学者の主張が紹介されています。この中でどちらかの主張が支持されているわけではありません。著者は「賛成するにしろ反対するにしろ、私たちに到来している現実はしっかりと見ておく必要」があると述べています。

他の章でも、資本主義が生む格差や宗教対立などの問題に対して異なる見方が提示されており、自分で考える機会を与えてくれます。

従来の常識が通用しなくっている今日にこそ、物事の根本に戻って考える哲学的思考が重要になるのでしょう。テーマごとにブックガイドも付いているので、この本をきっかけにいろいろな哲学者の思考に触れることで、新たな視点が得られるかもしれません。

『メモ活』

公開日:2023年04月15日

『メモ活』上阪 徹/著 Gakken 『メモ活』上阪 徹/著 Gakken

「人の脳は忘れるようにできている。忘れることを前提」に「とにかくなんでもメモに残すこと」を著者は勧めます。
メモはうっかり防止だけでなく、メモにして書き出すと頭の中が整理できるという効果があり、さらにやらないといけないことを覚えておく必要がなくなるため、気持ちにゆとりが生まれるという効能が大きいそうです。

ここでは、2つのタイプのメモを紹介します。

1つ目は「仕事系のノート」へのメモです。A4サイズのノートに、会議、商談など仕事中や会食のときなどに見たこと、聞いたこと、感じたことを書き込みます。このノートは自分の仕事の履歴になり、追記したり、見返したりすることで仕事力の向上にもなり、今の仕事に役立つことがあります。

2つ目は「スケジュール帳」へのメモです。ポイントは同じくA4サイズのノートを使い、スケジュールを1時間単位で組むこと、あわせて実際にかかった時間を記入しておくこと、デスクの時間もスケジュールに組み込むことです。そうすると、やるべきすべての予定が見え、自分で時間のコントロールをすることが出来るようになります。

新年度になりました。新しい仕事が始まった方も多いのではないでしょうか。お気に入りのA4サイズのノートを1冊用意して、「メモ活」を始めてみませんか。

『すごい立地戦略』

公開日:2023年03月15日

『すごい立地戦略』榎本 篤史/著 PHP研究所 『すごい立地戦略』榎本 篤史/著 PHP研究所

「なぜ、あの店は売れているのか」「なぜ、あの店は裏通りにあるのに潰れないのか」。それは、綿密な調査・計画に基づいた立地戦略があるから。

「街中、戦略だらけ」と言う著者の榎本篤史氏は、20年以上にわたり数多くの企業や経営者から依頼を受け、立地調査に携わってきたコンサルタント会社の社長です。

これまでの経験から、コンビニエンスストア、大手飲食チェーン店などをはじめ、様々な業種や業態の店舗開発における立地戦略についてわかりやすく解説しています。

そして、売上予測とビジネスモデルの選択にも立地が大きく関係しており、出店で失敗しないためには街の特性をよく知る必要があると説明します。

出店を考えている経営者や店舗開発担当者にとって、著者の言う「いい場所にあるいい店」になるヒントが満載なのはもちろんのこと、普段何気なく通っている道でも戦略という視点から街を眺めることで新たな見え方を体感できる、そんな1冊です。

『みんなと一緒につくる文庫本 サンモール50周年記念誌』

公開日:2023年02月15日

『みんなと一緒につくる文庫本 サンモール50周年記念誌』みんなと一緒につくる文庫本編集部/著  サンモール 『みんなと一緒につくる文庫本 サンモール50周年記念誌』みんなと一緒につくる文庫本編集部/著  サンモール

1972年、広島市中区紙屋町に中国・四国最大規模のショッピングモールがオープンしました。50年の節目に当たり同店が行ったみんなの「サンモールの想いで」を募集して文庫本をつくるというプロジェクトが形になりました。
 
本には応募のうち入選した54作品が掲載されています。サンモールが「大切な場所」で、お気に入りの店の様子や商品との出合い、一緒に出掛けた家族や青春を共にした仲間への思いなどが語られています。その頃の自分を思い出し、共感する方も多いでしょう。

サンモールの歴史が分かる「サンモールクロニクル」の章では、インディーズファッションコンテスト、バンドコンテストに代表されるような数々のイベントが関係者のコメントとともに紹介され、ファッションや音楽、アートなどの発信拠点、さらには屋上ブルーベリー園という新たな集いの場となっていることがわかります。

爆心地に近く壊滅的な被害を受けた場所に生まれた「広極(ひろごく)商店街」が共同ビル構想を掲げショッピングセンターへと転身した街の再開発の取り組み、「ヤングマインド」をコンセプトとした経営戦略、そして「お客さんと一緒に」というスタンスなどから、広島の街を元気にするための視点を見つけることができるのではないのでしょうか。

『勝てる民泊』

公開日:2023年01月15日

『勝てる民泊』山口 由美/著 新潮社 『勝てる民泊』山口 由美/著 新潮社

海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者をしていた著者にとって、民泊は取材対象でしかありませんでした。しかし2018年秋に設計士から、物置と化していた実家の離れが「次の夏を過ぎればシロアリで廃屋になる」と宣告され、離れを改装し民泊として開業することを決意しました。

その後コロナ禍に見舞われ廃業する民泊が多い中で、著者の民泊はV字回復を見せます。その成功の大きな要因は、「手間はかかっても、アイディアと工夫を駆使して、唯一無二の価値あるものを提供し、新たな顧客を開拓する、新しい宿のかたちとしての民泊」を目指すという戦略でした。

本書は体験記としてまとめられており、家主非住居型(家主は不在で、民泊の運営を住宅宿泊管理業者に委託する方法)の民泊をオープンするための手続き、上質で居心地のよい宿への改装、ゲストやスタッフとオンライン上でつながる運営方法などが詳細に書かれています。成功した事例だけではなく、うまくいかなかった事例も紹介されており、民泊運営のノウハウを知ることができる一冊です。

『江戸式マーケ』

公開日:2022年12月15日

『江戸式マーケ』川上 徹也/著 文藝春秋 『江戸式マーケ』川上 徹也/著 文藝春秋

「シェアリングエコノミー」「ソーシャルビジネス」「デザイン経営」は、今日のビジネスで注目されるキーワードですが、400年も前の江戸時代にはすでに実践されていたとすれば驚きではないでしょうか。本書に取り上げられている、江戸時代のビジネス戦略からいくつか紹介しましょう。

三井高利は、呉服は掛け売りが一般的だった江戸で現金正価販売をして成功を収めました。他にも、ロゴマークが大きく入った傘の無料貸出によるPR、移転オープンの際のチラシを使った大々的な広告など様々な戦略を打ち出し、経営学者のドラッカーに「三井家の人間によってマーケティングは発明された」と言われています。

豊島屋十右衛門は、不景気の中、酒の「原価販売」で店を繁盛させました。この「原価販売」は大量注文で仕入れ値を下げ、空になった酒樽を仕入れ値の1割程度で売ることによって成り立っていました。他店の「原価」が豊島屋にとっては利益の出る値段だったという訳です。

他にも大丸、山本山、にんべんなど創業300年以上の老舗や蔦屋重三郎、紀伊国屋文左衛門といった商人の、今も最先端な50のビジネス戦略が、イラストとともに分かりやすく紹介されています。顧客のニーズを読み、前例にとらわれない戦略は、商売の本質は不変であることを教えてくれます。「温故知新」という言葉がありますが、江戸時代の商人たちから新しいビジネスのヒントが得られるのではないでしょうか。

『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』

公開日:2022年11月15日

『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』西多 昌規/著 大和書房 『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』西多 昌規/著 大和書房

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって約2年半。
この間に働き方にも大きな変化があり、今やリモートワークやオンライン会議の利用は、フルリモートで働く人だけでなく、様々な職場や場面で見られるようになっています。

本書では、このような働き方の中で生じる疲労やストレスの原因を探り、それを乗り越えるための「休み方」が紹介されています。
例えば、デジタルワークによる目の疲れに対処するための、20分おきに20秒の休息、20フィート(約6メートル)離れたものを見る、「20・20・20」の法則が紹介されています。パソコンやスマートフォンなどを見る時間が増えている現代では、誰にでも参考になる休息方法の一つではないでしょうか。

タイトルにリモートとありますが、睡眠習慣や体内リズムを整える方法、SNSの利用方法など、誰もがちょっとしたことで、心身を整える方法が紹介されています。
気になる項目だけを読むこともできるので、今抱えている不安や不調の対処方法、また普段の生活を見直すきっかけが見つかるかもしれません。

年末に向けて忙しくなる時期、上手な「休み方」を知り、新しい年に向けて心身を整えてみませんか。

『お金のむこうに人がいる』

公開日:2022年10月15日

『お金のむこうに人がいる』田内 学/著 ダイヤモンド社 『お金のむこうに人がいる』田内 学/著 ダイヤモンド社

ゴールドマン・サックスでトレーディングの仕事をしていた金融のエキスパートとも言うべき著者がこの本を書いたきっかけは、経済に関する2つの「謎」との出会いだそうです。

1つは「政府の借金の謎」、もう1つは「ざるそばの謎」。

この2つの謎を解き明かすために、お金とは何か、借金とは何かをとことん考え、経済を突き詰めて考えた先に見えてきたものは、お金ではなく「人」でした。経済の目的は「お金を増やすこと」と考えていると、お金を奪い合うために働くことになりかねません。自分たちが働くことでモノを作り出し、その効用で誰かの生活を豊かにしている、つまり誰が働いて誰が幸せになるのかを考えることで、経済の本質はシンプルで直感的に捉えることができると述べます。
 
円安ドル高や物価高など、新聞やテレビなどで報道される金融や経済の問題は、私たちの生活に大なり小なり影響があるにも関わらず、専門用語が多く難解だと敬遠しがちではありませんか。経済について考えるきっかけとして、この本を読んでみてください。

『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』

公開日:2022年09月15日

『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』瀬戸内デザイン会議/著 CCCメディアハウス 『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』瀬戸内デザイン会議/著 CCCメディアハウス

「瀬戸内デザイン会議」は、デザイナーの原研哉氏などが主催し、瀬戸内エリアに限らず日本の新次元の観光ヴィジョンについて話し合われています。

第1回の会議には実業家や編集者、建築家、現代美術作家など様々な領域で未来を見据えている27人が集結。メンバーの一人、株式会社広島マツダ代表取締役兼CEOの松田哲也氏が取得した宮島の旅館の再生というテーマを軸に、レクチャーやセッション、プレゼンテーションが行われました。

この本は、その会議に参加しているように読み進められる構成になっています。示唆に富む数々の発言の中で、今後インバウンドが回復するという予測のもとでは、関西国際空港を使う外国人観光客の行動分析や海外での建築による街おこしの紹介などは大変参考になります。また、嬉野のお茶や四万十の栗などの事例に代表される「土地に根ざす」という考え方や環境に負荷をかけない観光という視点は大切にしていきたいものです。

今後の観光産業発展の道筋を示す本書は、組織や産業分野の枠を超えた交流や対話の価値を知ることができる一冊ともなっています。