調べもの

書評

『考えるとはどういうことか』

公開日:2022年08月16日

『考えるとはどういうことか』外山 滋比古/著 集英社インターナショナル 『考えるとはどういうことか』外山 滋比古/著 集英社インターナショナル

本書は、「知識と自由な思考は対立し、互いを圧迫するのではないか」と考える著者の、課題や問題にしばられることのない自由思考の軌跡を収めたエッセイです。

第一~第三人称までの人々に対して、劇の観客のような別次元の視点を持つ「第四人称」、知識と経験に創造的な思考を加えることで新たな価値を生み出す「触媒思考」など、著者独自の思考が6つのテーマで語られています。グローバル社会での外国との付き合い方、選挙での有権者の判断力、川柳や俳句の奥行のある世界、日本語の曖昧性など著者の自由な思考をたどっていくことが、「考えるとはどういうことか」という問いへの答えになるでしょう。

今日では、スマートフォンで検索すればいろいろな知識が簡単に手に入る一方で、情報過多による脳過労や思考力の低下などの問題が指摘されています。10年前に出版された書籍ですが、著者が言う「整理された頭を自由に働かせる思考」はますます重要になっているのではないでしょうか。

『顔認証の教科書』

公開日:2022年07月15日

『顔認証の教科書』今岡 仁/著 プレジデント社 『顔認証の教科書』今岡 仁/著 プレジデント社

本書は、ビジネスパーソン向けに、顔認証システムの仕組みや利用分野、今後の展望を分かりやすく解説しています。4章構成でそれぞれが独立した内容になっており、興味のあるところから読むことができます。

顔認証を使ったビジネスに興味があるという方は、第4章から読んでみてはいかがでしょうか。空港での手続きや観光地での料金の支払いを顔認証で済ませる社会実装事例や、がんの早期発見など医療現場での応用例などが紹介され、ビジネスにどう活用できるかが分かります。

第1章では情報としての顔の特徴とその認知・認証について、第2章ではAIによる顔認証の仕組みが述べられています。なるべく数式を使用せず説明しているため正確ではない部分があるそうですが、コンピュータに詳しくない方でも理解できるよう書かれています。

第3章では、経営者やマネジメント層、技術者の方への「モノづくり」のヒントとして、企業の一員である著者の研究過程が語られています。研究を引き継いだ当時、研究チームは社内では日の当たらない存在で、開発した顔認証技術はエラー率が30%になるケースもあり、チーム存続の危機まで状況が悪化。そこから一念発起して世界一の評価を獲得し、さらに顔認証技術の分野で常に世界をリードする存在となった現在まで、どのように取り組んできたかが分かります。また、役員から「トップになってどういう意味があるの?」と問いかけられたことなど、企業技術者として自分の研究の社会的価値を考えることや人に伝えることの重要性を感じたエピソードも紹介されています。

『テクニックに走らない ファシリテーション』

公開日:2022年06月15日

『テクニックに走らない ファシリテーション』米井隆・岩本宏輔・森各/著 産業能率大学出版部 『テクニックに走らない ファシリテーション』米井隆・岩本宏輔・森各/著 産業能率大学出版部

会議やプロジェクトなどを効率的にまた円滑に進めることは大切な事です。そしてそれらを進めていくためには、中心的な役割を担う人「ファシリテーター」が必要になります。

本書では、押さえておくべきファシリテーションの基本技術と合わせて、会議をゴールに導き参加者を満足させる「ちゃんとうまいファシリテーター」になるための2つのセンスと3つのスタンスが紹介されています。

例えば求められるセンスの一つとして「目利き」があり、ファシリテーターは「場」「話」「意図」「感情」の目利きであることが重要であると言い、それぞれのポイントや「目利き」のセンスを磨くためにできる日ごろの心がけが紹介されています。そして、テクニックに走らないために、観察し、解釈し、そして行動するための思考モデルも紹介されています。
また、オンライン会議におけるファシリテーションについても触れられています。

本書を読むことで、今の自分の物事の見方や考え方を振り返ることもでき、新たな気付きと発見に繋がるのではないでしょうか。また「センス」と「スタンス」を身につけることは、コミュニケーション力を向上させるためのヒントにもなりそうです。

『アイデアのつくり方』

公開日:2022年05月15日

『アイデアのつくり方』ジェームス・W.ヤング/〔著〕 今井 茂雄/訳 CCCメディアハウス 『アイデアのつくり方』ジェームス・W.ヤング/〔著〕 今井 茂雄/訳 CCCメディアハウス

「アイデアをカタチに」とは、ビジネス関係の本でよく目にするフレーズです。しかし、その肝心のアイデアを思い付かないときはどのようにしていますか。

1910年代にアメリカの広告代理店J・ウォルター・トンプソン社でコピーライターとして働き始め、後にアメリカの広告産業界に多大な影響を与えた人物であるジェームス・ウェブ・ヤングは、自身の経験などからアイデアとはどういうものなのか、その原理を解き明かし、アイデアをつくるための方法を提唱しました。

アイデアをつくるための手順として5つの段階をあげ、決して容易なことではないがこれを実行すれば誰でもアイデアをつくる能力を高めることができると言います。

アメリカで原著が出版されたのは1940年。以来読み継がれており、日本でもビジネス書の基本書となっているようです。

『働きだして見つけた夢』

公開日:2022年04月15日

『働きだして見つけた夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版 『働きだして見つけた夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版

「夢」を辞書で調べると、「将来実現したい願い」とあります。働きだすと、最初に抱いていた夢や理想と現実の差に悩み、目の前の仕事に追われ、今のことが精一杯という人も多いのではないでしょうか。

本書では、社会人1年目から46年目までの、職種や仕事に就いた理由も違う22人が、仕事を続けるなかで見つけた夢を率直に語っています。自分の企画の放送を夢見る1年目のテレビ局AD。学べることをたくさん吸収し、会社の最先端を走れるようになりたい6年目の鉄工所員。「またあの人に会いたいな」「あの本屋さんにいきたいな」と思ってもらえる店にすることが夢の27年目書店員。「これを見てください」と言える字を書くことが生きる目標であり、夢という44年目の書道家。いろいろな壁や悩みを乗り越えた彼らはみな、素敵な笑顔をしています。

「何歳になっても、夢はなくならないし、何年働き続けても、新しい夢はまた始まっていく。そうして、ずっと夢に向かっているからこそ、笑顔で働いていられるんだ。」忙しい毎日であっても時には立ち止まり、自分の夢を考えてみることは、前向きに働く原動力になるのではないでしょうか。

『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』

公開日:2022年03月15日

『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』阿佐見 綾香/著 PHP研究所 『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』阿佐見 綾香/著 PHP研究所

タイトルにある「調べ方」は、マーケティングリサーチ(マーケティング活動を行う上で必要となる情報を収集し分析する調査)を指しています。「ヒットは「調べ方」が9割」と言う著者のノウハウを盛り込んだ一冊です。

著者は、株式会社電通の戦略プランナーで、企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発などに従事し、セミナー、講演、社内研修等の講師経験も豊富です。

ヒットをつくるための正しい「ターゲット」と「セールスポイント」を見つける第1歩は、それらの仮説を立てること。次に仮説を検証し分析するにはどのようなリサーチの手法が適切かを決めます。そして実行し、結果を踏まえて仮説をブラッシュアップするというサイクルが重要だそうです。

リサーチの手法は、「ヒット商品開発リサーチ」「戦略リサーチ」「ロングセラーリサーチ」の3つに分けて紹介しています。特に「戦略リサーチ」を重点的に扱い、3C分析の市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)を丁寧に解説しているので、理解を深めることができます。

500ページにもなる分厚い本ですが、作業服専門店「ワークマン」や化粧品メーカー「コージー本舗」の「つけまつげ」などの成功事例を基に読みやすく書かれています。また、今知りたいことや気になったところから読めるよう目次や索引が充実しています。

本書で紹介している官公庁や業界団体、金融機関が発行した統計資料等は、中央図書館に備えていますので、ぜひご活用ください。

『新聞記者、本屋になる』

公開日:2022年02月16日

『新聞記者、本屋になる』落合 博/著 光文社新書 『新聞記者、本屋になる』落合 博/著 光文社新書

「人生100年時代」と言われる昨今、ライフスタイルを考える上で、定年後の第二の人生をどう過ごすかは大きなテーマのひとつです。

毎日新聞の記者だった著者、落合博氏は、65歳まで会社に残るという道もある中、58歳で退職して本屋「Readin' Writin' BOOKSTORE」を開業し、今では行ってみたい魅力的な本屋として雑誌などにたびたび取り上げられています。

街の本屋が次々と消え、本が売れない時代において、本屋を開くのが夢だったわけではなく読書家でもない著者が、どうやって本屋を開業したか、この本にはその道のりがつづられています。

著者は最初に開店日を2年後の4月23日「サン・ジョルディの日」(スペイン・カタルーニャ地方の祝祭日で、大切な人にバラの花や本を贈る習慣がある)に設定します。そして、仕事の合間に本屋を巡り可能であれば店主に話を聞き、膨大な量の本や雑誌から情報を集めます。さらに、起業者対象のセミナーに参加し、出店場所や店名を決めるなど、開業というゴールに向かい準備を進めていく中で自分が目指す本屋のイメージが固まっていったと語っています。

「本屋を始めるには、とにもかくにも準備が大事。(中略)スポーツに喩えれば試合が始まる前にほぼ勝敗は決まっている。どれだけ練習したかだ。」という言葉に、著者の成功の秘訣があるのではないでしょうか。

『センスがないと思っている人のための読むデザイン』

公開日:2022年01月15日

『センスがないと思っている人のための読むデザイン』鎌田隆史/著 旬報社  『センスがないと思っている人のための読むデザイン』鎌田隆史/著 旬報社 

「センスがないと思っている人はかつてのぼく」だと著者は言います。
本書は、デザイナーである著者が自身の経験を発信しているメルマガを基に、幅広い立場の人に気軽に読んでもらいながら「深いデザインの本質」まで足を踏み入れてほしいという思いで書籍化したものです。

街へ出て自分が素敵だと感じるものを見つけ、写真や絵、切り抜きをスクラップして自分だけの「お楽しみノート」を作ること、通勤電車の中で中刷り広告などを見てそのデザインで何を伝えようとしているのかを探す「コンセプト探しゲーム」をすることなど、誰でもすぐに取り組めることでデザインへの理解を深める術を教えてくれます。また、それらを続けていくとどのようなセンスが磨かれていくのかも分かります。

何かの商品を作る時だけではなく資料を作るときにも、デザインは視覚に訴える上で有用なスキルだと思います。デザインすることが苦手だと感じている人、デザインの基本を知りたいと思っている人、そして本当に読むだけでいいの?と思った人にも読んでみてほしい、仕事に生かせるヒントが詰まった1冊です。

『リーダーを目指す人の心得』

公開日:2021年12月15日

『リーダーを目指す人の心得』コリン・パウエル/著 トニー・コルツ/著 井口 耕二/訳 飛鳥新社(書影は文庫版です) 『リーダーを目指す人の心得』コリン・パウエル/著 トニー・コルツ/著 井口 耕二/訳 飛鳥新社(書影は文庫版です)

ストリートキッドから登り詰め、黒人で初めてアメリカ軍の統合参謀本部議長や、ジョージ・W・ブッシュ政権の国務長官などを歴任したコリン・パウエル氏が大切にしてきた教訓や逸話を語っている本です。

「やればできる」、「他人に自分の道を選ばせてはいけない」、「冷静であれ、親切であれ」などの本人が座右の銘としている「13カ条のルール」。「わかっていることを言え」「わかっていないことを言え」「その上でどう考えるのかを言え」「この3つを常に区別しろ」という、部下から必要な情報を得るために設定した「4カ条のルール」。新しい部下に配るメモ「私の側近として生き残る方法」など、リーダー、部下それぞれの立場にある人の心得が数多く紹介されています。

ベトナム戦争やイラク戦争など多くの体験談も語られていますが、「人生で一番大きいのは、出会った人々とどのように触れ合ったか。人生は全て人。今の自分があるのは人生で出会った多くの人々のおかげ」と、人を最も大事にされてきたパウエル氏の、謙虚で誠実な人柄がにじみ出てくる内容です。

残念ながら、2021年10月18日に、新型コロナウイルス感染症の合併症のため84歳で亡くなったパウエル氏の言葉は、仕事をする全ての人に向けてのヒントが詰まっています。

『風のマジム』

公開日:2021年11月16日

『風のマジム』原田 マハ/著 講談社  『風のマジム』原田 マハ/著 講談社 

「ラム酒を造りたいんです。南大東島産の」。
偶然社内ベンチャーコンクールの募集を知り、さとうきびからできる「風の酒」アグリコール・ラムを造ると決めた通信会社の派遣社員、伊波まじむ。「思ったら、即、行動」がチャームポイントのまっすぐなまじむの行動は、製糖以外の産業に活路を見出したい南大東島の商工会会長、村長をはじめ、会社の役員など多くの人の心を動かし、沖縄初のアグリコール・ラム『風のマジム』が出来上がります。
出来上がるまでの道のりは決して順風満帆だったわけではなく、工場の候補地である島の製糖会社の反対にあい、希望する醸造家には一度断られるなどたくさんの試練が待ち受けていました。

挫折しそうになるたびに、家族や周りの人たちに助けられながら、長い歳月をかけて夢を実現する物語に、信念を持って奮闘する姿は人を動かすのだと思わずにはいられません。
この小説は、著者が作家として活動する以前、取材で出会った女性がモデルになっています。彼女は実際に、社内ベンチャー制度を活用して南大東島にラム酒製造の会社を2004年に設立しました。その後も販路開拓や商品開発をしながら、現在もアグリコール・ラムをはじめ、複数の商品を世に送り出しています。