タイトル
04.民喜の作品紹介
 原民喜の作品をいくつかご紹介します。

1.夏の花
2.
3.ガリバー旅行記
4.心願の国
5.鎮魂歌
6.永遠のみどり
7.苦しく美しき夏
8.秋日記
9.美しき死の岸に
10.三田文学


7.苦しく美しき夏

「苦しく美しき夏」
「苦しく美しき夏」
原 民喜 自筆メモ  
ノートの一部に草稿の一部が。  
当館整理No.938
昭和24.5・6月合併号「近代文学」発表。
 自宅で療養する妻との生活の中で、幼年時代の思い出や夢を綴る。それらには常に死の影がまとわりついているが、主人公は運命のすべてを受け入れ、ただ静かに待っているかのようである。
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 気分のいい日には、妻は自然の恵みを一人で享けとっているかのように静臥椅子で沈黙していた。すべて過ぎて行った時間のうち最も美しいものが、すべて季節のうち最も優しいものだけが、それらが溶けあって、すぐ彼女のまわりに恍惚と存在している。そういう時には彼も静臥椅子のほとりでぼんやりと、しかし熱烈に夢みた。たとえ現在の生活が何ものかによって無惨に引裂かれるとしても、こうした生存がやがて消滅するとしても、地上のいとなみの悉くが焼き失せる日があるとしても・・・。

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8.秋日記

 昭和22.4月号「四季」発表。
 入院した妻のもとに通う日々が語られる。彼の心を穏やかにしてくれる唯一の存在である妻の回復を願うが、近づきつつある戦争の影は、将来への不安や悲しみを暗示させる。
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 彼は歩きながら『奥の細道』の一節を暗誦していた。これは妻のかたわらで暗誦してきかせたこともあるのだが、弱い己れの心を支えようとする祈りでもあった。 ・・・幻のちまたに離別の泪をそゝく  今も目の前を電車駅に通じる小路へ、人はぞろぞろと続いて行った。

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9.美しき死の岸に

 昭和25.4月号「群像」発表。
 妻の長い病床生活を共にしながら、主人公はその生活にも慣れ、その穏やかさが永久に続くことを望む。だが「冷え冷えとしたもの」は絶えず彼の根底を漂い続ける。常に脅かされていた「死の幻影」は、それを心のどこかで待っていた彼にではなく、妻に降りかかってしまう。
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「死」が彼よりさきに妻のなかを通過してゆくとは、昔から殆ど信じられないことだったのだ。だが、たとえ今「死」が妻に訪れて来たとしても、眼の前にある苦しみの彼方に妻はもう一つ別の美しい死を招きよせるかもしれない。それは日頃から彼女の底にうっすらと感じられるものだった。彼も今、最も美しいものの訪れを烈しく祈った。・・・

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10.三田文学

 文芸雑誌 明治43(1910).5〜
 永井荷風を中心に森鴎外、上田敏を顧問として創刊。義塾大学の三田文学会機関紙で、創刊時は耽美主義的色彩が強く、「早稲田文学」の自然主義に対立した。久保田万太郎、水上滝太郎、佐藤春夫らが活躍。戦後、編集者は丸岡明から木々高太郎を経て若い世代に引き継がれた。石坂洋二郎・丸岡明・原民喜・堀田善衛らを輩出している。昭和期に雑誌の性格は変わるが、断続しつつ現在に至る。



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