沿革・コレクション

アメリカから贈られてきた20世紀前半の子どもの本 ─ベル・コレクション調査報告─

5.ベル・コレクションの絵本の概要

1)クリスマス絵本とネコ絵本

 クリスマス絵本から絵本の部に入るのは、たまたま、「ベル・コレクション」所蔵のものが、絵本の歴史の前段階のもの、明るく楽しい物語絵本、繊細な色調で描かれた素朴なクリスマス風景に癒される現代絵本であったことによっている。絵本がその時代の子ども観や思潮も含んで表出されているのを的確に示している。

 次に、ネコ絵本がくるのは、「ベル・コレクション」の絵本で最も数が多く、その上、絵本の世界に読者を誘い込む「絵本の文法」のようなものの成立過程が見えてきたからである。まず、ネコの画家として人気のあったニューベリーの『ネコのバベット』は、オーソドックスな物語絵本である。『コピー・キャット』になると、ネコの生態を描くより、デザイン化されたキャラクターになって、現代の「キティちゃん」に繋がっていくようないわゆる「かわいい」絵本である。人気を得るツボは、読者の方を真っ直ぐに見つめる視線にあり、40年代には、その技を踏襲して、ウサギ、ヒヨコ、リスなど毛並みを触ってみたくなる動物を主人公にした動物絵本へと進化していく。『教会ネコのガブリエル』は物語絵本として優れ、絵の構図のおもしろさや細部の発見がある。

 なぜ、ネコ絵本がこれほどの人気なのか、十分に解明できていないが、動物で描くことで、国、人種、文化などの問題を回避し、自由になれることは確かであろう。

2)ユーモア絵本と動物絵本

 ユーモアのある絵本は、いつも子ども読者に歓迎されている。しかし、『ふしぎな500のぼうし』を刊行した1930年代には、ドクター・スースのそれまで見たことのない動きのある線画や独特の動物や人物画、奇妙な物語は、大人の読者には全く理解されず、子どもが楽しくページを繰って絵本の世界に入っていくのを傍観していたのである。その実績から50年代になって、言葉遊び絵本などが「はじめてよむ本」などの選書リストに入るようになり、1991年に亡くなったときは、アメリカを代表する絵本作家として認知されていた。

 マンロー・リーフは、道徳教育の徳目のような言葉を使って、おもしろい絵本を作る名手で、大人読者の認知もそれほど困難ではなく、物語絵本として独自の世界を拓いたと言える。

 イーネズ・ホーガンは、黒人の子どもニコデマスやエパミナンダスを主人公にした絵物語で人気があった作家である。黒人を笑いの対象として描くことは、主な読者が白人の子どもであった30年代までは、ごくありふれたことであった。しかし、“Politically Correct”(差別的でない)かどうかが問われ、本棚から消えて行った。ただ、ホーガンの描いた子ゾウの魅力は取り上げる価値を残していると考えた。

 動物絵本は、知識絵本の範疇でも出版されているが、渡り鳥の旅を描いた『コマドリの大旅行』や人気者のアザラシが引退して動物園で余生を送る『サーカスのアザラシ フラッピー』は、物語絵本としても楽しく読める。ガース・ウイリアムズの『ひよこの本』は、子どもが思わずふわふわの毛並みを撫でたくなるような絵本である。

 『ゾウの子ども』『赤いリスさん』『降れば土砂ぶり』の3作は、いずれも「移民アーティスト」がさし絵を描いている。30年代から4, 50年代のアメリカ絵本で、卓越した描写力や斬新なデザインや民族伝統画などの美しい絵本の絵本画家名を見ると、ヨーロッパの国々で美術教育を受けた画家の手になっていることが多い。ロジャンコフスキー、ウィーゼ、グスターフ・テングレン、ティボル・ゲルゲイ、ワイスガード、ドーレア夫妻、ピーターシャム夫妻などである。言語による障害で不利になることの少ない絵本の世界で、彼らの才能が開花していったのだ。

3)リトグラフ絵本

 大量に刷れるオフセット印刷が主流になる前の30年代から50年代あたりまで、色彩絵本の多くはリトグラフ印刷されていた。石版画では大量に刷れなかったが改良され、アルミ版などで多く刷れるようになったのである。リトグラフ絵本が注目されるのは、版画なので何度も刷れば、美しい色彩絵本ができるからである。画家が直接現場に行って印刷に関わることもあった。「ベル・コレクション」のリトグラフ絵本と、後年再版された同じ絵本を比較してみるとその違いに驚かされる。

 『バーミューダ島』『アーミシュの少女リディア』『大きくなあれ』の3作は、1940年代を代表するリトグラフ絵本である。次いで、マーガレット・ワイズ・ブラウンとレナード・ワイスガードのコンビによる3作を取り上げている。多くの画家と組んだ絵本を残しているブラウンが、その新たな物語を3作、ワイスガードに託し、画家は、見事に一作毎を描き分け美しい絵本に仕上げた。この6作は、アート作品ではないが、アメリカの絵本を語るとき、手作りのアートのような美しい絵本として高い評価が与えられるだろう。

4)物語絵本

 絵本は、さし絵入り本 → 絵物語 → 物語絵本(文と絵が互角)→ 文字なし絵本や物語に依存しない絵本へと時代を追うにつれて新しい作品を刊行してきた。しかし、この時代では、まだ、物語が先行して、画家がそれに絵を添える絵本が多い。文と絵をひとりでこなす絵本も出てきてはいるが、絵が先行して、物語を添える作品は例外的である。

 ガアグは『白雪姫と七人の小人』で昔話の絵本化を試み、『はなのすきなうし』で、画家ローソンは与えられた作品を絵でも語っている絵本にし、サーバーの童話『たくさんのお月さま』では、スロボドキンの絵が入ることで、ひとつの世界ができて、さし絵ではあるが、絵本とも呼べる作品になっている。

 聖書の詩句からなる宗教的な雰囲気をもつ『こさめ』や、1725年の物語がアメリカで昔話のようになった絵本『くつふたつちゃんのお話』、そして、アフリカ系アメリカ人の絵本など、絵本になってきた長い歴史と絵本の多様性を語ることのできる絵本が取り上げられている。

5)乗り物絵本

 機関車や自動車が幼児絵本の人気者になったのは、眼鼻のある名前を持った「人格」を備えるようになってからである。その先駆的な作品が「小さな機関車」が活躍する物語であった。そこでは“Little Engine”として固有名詞のように名づけられている。その後、機関車絵本が盛んに刊行されるようになり、他の乗り物絵本の隆盛に繋がっていった。「スモールさん」のシリーズになると、乗り物の種類も多くなり、動かし方など知識絵本の要素も入ってくる。また、グラマトキーのように、乗り物がヒーローになる物語絵本まで出来ている。

6)知識絵本 〔解題番号Ⅱ・08〕

 「ベル・コレクション」には、百科事典はあるが、「知識」をテーマにした図鑑は、殆ど見当たらなかった。他に類書のない『はがねの本』は、ロシア絵本の影響が考えられるが、工業時代の工場で働く人や機械などが描かれている。『小さい赤い灯台と大きい灰色の橋』は、実話に基づいたノン・フィクション絵本である。『働くトラック』では、トラックの種類やその機能、運転手の仕事ぶりなど、流通の先端で働くトラックそのものを主題にしており、20世紀後半に、より多くの情報と精緻な絵によって飛躍的に発展していくジャンルの先駆けである。

7)写真絵本

 20世紀前半のこの時代には、写真を使ったいろいろな絵本が出版されている。結論を先に言えば、時代を超えることのできた絵本を見つけることはできなかった。人形絵本やお出かけ絵本、飼いネコを主人公にしてつくった物語絵本、身近な材料を使ってクイズ形式で言葉を覚えていく知育絵本などに、工夫の跡を見ることはできたが。

 20世紀後半になると、カメラの発達によって、肉眼では見えない世界が写せるようになり、新しい写真絵本が刊行されるようになっていく。また、ドキュメンタリー絵本や図鑑なども充実してくる。

8)しかけ絵本

 「ベル・コレクション」には、しかけ絵本が6冊あるが、どれも見事にしかけが壊れているのは、子どもたちに愛された証拠である。壊れたままで廃棄されず、今日まで残っているのは稀有で、しかけ絵本の歴史の一コマとして貴重である。それは、しかけ絵本は、読んでもらうという受動的な絵本を、自ら乗り出して動かすことのできる能動的な絵本にできるので、人気があるが、人気のあるものほど、壊れてしまい、その実態がつかめなくなっているからである。

 しかけは、単純なポップアップ本、本に細工をしてページをめくる楽しみのある絵本、そして、タブを引っ張って動かす絵本である。『長ぐつをはいたネコ』を制作したジュリアン・ヴェールは、ドイツやイギリスの高度なしかけ絵本が高価すぎて手軽に遊べなかったので、安価であるが複雑な動きをするタブを考案している。30作ほどを残しており、「アメリカしかけ絵本の父」と呼びその作品を高く評価しているコレクターもいる。

9)ディズニー絵本

 「ベル・コレクション」には、ディズニー絵本が8冊ある。325 Peculiar Penguins, 1934以外はすべて40年代の絵本で、原作があって、アニメ化し、アニメからまた絵本をつくっている。この時代のディズニー社がアニメに向く作品をいろいろ探し、短編や長編作品を動画にしていくスピードにはすさまじいものがある。また、自社のアニメに向く画家を獲得していく確かな目配りも見るべきものがあったと言える。絵本作家の多くは、ディズニー社で働いた経験があるか、何らかの関係があった画家なのである。

10)“A Little Golden Book”

 1942年に販売を開始して以来、薄利多売の戦略が成功し、巨大なシリーズ“Golden Books”を形成していき出版史に残る快挙となった。その最初のシリーズが12冊の“A Little Golden Book”である。「ベル・コレクション」には、1949年までの44タイトルが所蔵されている。

 このシリーズはどうしても安価であることが取り上げられてしまうが、最初の12冊のリストをチェックすると、それまでにあった絵本をよく研究し、子どもの興味性を視野に入れ、教育学博士を監修者に据え、カラー14ページと白黒28ページを交互に使い、力量のある画家を起用した上で、市場調査をし、ベイビー・ブーマーのいる家庭をターゲットに周到に考えられた企画であったことがわかる。安価本ではあるが、従来の安ピカ絵本とは違っていたのである。

 現在も版を重ねているタイトルも多くあり、「解題」で取り上げた他にも、昔話では、310 The Little RedHen, 1942 と604 Hansel and Gretel, 1943が、乗り物絵本では、648 Scuffy the Tugboat, 1946と666 Tootle,1945など、ロングセラー作品が目につく。

11)「ちびくろサンボ」と「ピーター・ラビット」

 「ベル・コレクション」に集まってきた「ちびくろサンボ」と「ピーター・ラビット」の絵本には、イギリスの原著そのままのアメリカ版が一冊もないのが不思議だった。すべて「海賊版」なのである。しかし、読んでいくとおもしろいことに気付いた。どれも、まるで、作者のない昔話のような扱われたかたをしていたからである。396『くつふたつちゃんのお話』のケースと同じなのである。骨格のしっかりした昔話が細部を落としたり変えたりしながら伝わっていくのと同じような伝播力がある話なのである。

 「ちびくろサンボ」の場合は、原著が小型で、描かれている黒人がアフリカ系でなかったこともあって、そのままでは、受け容れ難かったのだろうという推測はできる。この絵本は、イギリスで、シリーズの一冊として刊行されると他の本とは比較にならない売れ行きを示し、シリーズの他の画家が模倣作を出しており、なぜ、幼児にこれほど受容されるのか、かなりの間、理解できなかった絵本である。

 また、黒人差別の問題で、日本でも公共図書館から姿を消し、「岩波の子どもの本」版や他の出版社でも絶版にするなど、論議のある絵本である。

 「ピーター・ラビット」の場合は、原著の絵が、安ピカ絵本を見慣れていた子どもには、「地味」過ぎて可愛くないと思われたのではないかと推測できる形跡はある。版権の確立した今日では考えられないが、版権を支払わないで、「ピーター・ラビット」をアメリカの子どもに紹介した絵本があることも、「ベル・コレクション」の多様性のひとつではある。

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