沿革・コレクション

アメリカから贈られてきた20世紀前半の子どもの本 ─ベル・コレクション調査報告─

4.ベル・コレクションの作品の概要

1)アメリカに関する本と他国を理解する本

 「ベル・コレクション」の調査をしている過程で、ジャンルを問わず、「アメリカ」について伝えたい、教えたいという目的がはっきりとわかる作品が数多いことに気付いた。それは、移民・難民を数多く受け入れ、その子どもたちが「よきアメリカ市民」になるための必読書にもなった。

 一例をあげてみる。553 We Love America: Simple Stories of American Living, 1948(初版1941)という幼児向けアメリカの暮らし入門書である。小型絵本で、左ページは文章、右ページは絵で構成されていて、田舎の農場・大都会、大河のそばの暮らし・カウボーイのいる牧場、果樹園・自動車での旅、おもちゃ屋・食料品店と次々に紹介されていく。学校・図書館の場面で、新しくアメリカにやってきたサミーがいとこのピーターに学校へ行こうと誘われると、サミーは“I haven’t any money.”と断る。ピーターはアメリカの学校は無料でどんな子どもでも歓迎されると伝える。図書館でも同じような問答が入っており、アメリカでは差別なく無料で学校と図書館で受け入れられることを伝えている。このタイトルの“I Love America”は、“GreatAmerica”とともに、いろいろな場面で使われているフレーズである。

 初代大統領ジョージ・ワシントンの伝記は、繰り返し出版されている。その内容も、簡潔な伝記、子ども時代に特化したもの、夫人の伝記まで幅広く、アブラハム・リンカーンとともに、どこかで必ず出会う伝記であっただろう。

 アメリカ建国の歴史と、そのなかで活躍した「英雄」の物語もまた、繰り返し出版されている。植民地から国家となった誇りは、星条旗の成立の歴史や“Our Nation”(わたしたちの国)という言葉からよく伝わってくる。

 アメリカ以外の国や地域を扱った作品も数多い。特に、発展途上国の子どもを主人公にして、その暮らしや文化を伝えようとするノン・フィクションものと、文学作品として制作されたが、結果として「他国の理解」に繋がる本になったものがある。このジャンルは、アメリカが多民族国家であることと関係が深いが、現在では、世界を地球規模でグローバルにとらえる能力を養う必要性が増してきており、注目されるジャンルになっている。

 初期の試行錯誤の歴史から読み取れたのは、断片的な知識を集めたものは論外としても、実際にその国に行った経験があり、情報を集めて書いたとしてもその国がうまく伝わるとは限らないことである。1865年の出版で、長くオランダのことを知るならこの本といわれてきた『ハンス・ブリンカー』は、著者ドッジがオランダを訪れる体験がなく創作されている。逆に、伝道などの使命を持って他国を描くと著者の価値観では理解できない文化や風習がないがしろにされて描かれてしまうのである。

2)古典的な作品

 長くイギリス児童文学を受け入れてきたアメリカでは、幼児向けの絵本で「ちびくろサンボ」や「ピーター・ラビット」が、創作ではなく、昔話のキャラクターであるように自由に再話されていたり、ウィーダ作「ニュールンベルグのストーブ」のように本国では読まれなくなった物語がひっそりと残っていたりしている。また、カウボーイの国で『黒馬物語』の人気は高く、さまざまなさし絵画家による異なった魅力を持つ馬の姿が目についた。

 また、「ベル・コレクション」では、イギリス版そのままで出版された作品は数少ない。テニエルのさし絵が入った『ふしぎの国のアリス』の限定版とA. A.ミルンの三作品は注目される。特に、ミルンの詩集『ぼくたちの幼かったころ』273刷、『クマのプーさん』100刷、『プー横丁にたった家』137刷は、原著のまま、版を重ねており、その版ごとの年の記録が扉裏に掲載されており、人気が出る過程が一目瞭然であった。

 イギリス以外の国の作品としては、『ピノッキオ』の人気が目立っている。原作では、教訓的な箇所や木で作られた人形であることの意味なども重要な意味をもっていたが、アメリカにやってきたピノッキオは、トム・ソーヤーなどと同じ悪童物語の系列に連なっているように見える。

 アメリカ児童文学の古典と言えば、『トム・ソーヤーの冒険』と『若草物語』である。トムは、アメリカの少年の代名詞であり、『若草物語』のジョーは、アメリカの少女像を作り上げてきた。特に後者は「家庭物語」であり、時代が変われば読まれなくなる実態のなかで、母親と四人姉妹のキャラクターの魅力で時代を超えて読まれている稀有な作品である。

 現実の物語が主流となるなかで、『オズの魔法使い』は、イギリス流のファンタジーではなく、アメリカの田舎を背景にして創作された最初期のファンタジー作品である。舞台、ドラマや映画となって広く読まれるようになった。

 アメリカと言えば、アメリカン・ドリームの「貧しく生まれて大統領になる」を、作品として書き続けた作家ホレイショー・アルジャーも欠かせない。「ベル・コレクション」には、一冊しか所蔵されていないが、19世紀のアメリカでもっとも読まれた作家で、約400作品を残していると言われている。

 『名犬ラッド』1919は、名馬や名犬の物語の先駆けとなった作品で、擬人化された動物物語とは違った魅力を持つ「現実生活に基づいた作品」として、大きい影響を与えている。

3)児童文学作品

 アメリカでは、20世紀初頭から子どもと本を結びつけようとする試みがいろいろなされている。その一つに、表紙に大人が子どもに本を読んでいる絵が入っている本で、詩や短編の名作が集められている作品集がある。父親や母親が子どもに本を読んでやっている構図の絵は、イギリスのヴィクトリア時代の中産階層の家庭におけるよき習慣として、多くの絵画や作品を飾ってきた。それがアメリカに文化輸入されると、中産階層だけではなく、もっと広がりを見せ、安価な絵本などにも使われるようになっていく。中でも、夜寝る前に読んであげる本の選集は、1910年代から多数出版されている。その定番となったのが、『365日・お休み前のお話集』である。また、教育学者と作家が協力して開発した学年別の読み物シリーズにも、ロングセラーが出てきている。

 そうした中から、「幼年文学」と後に言われるような作品が誕生してきて、今日まで活躍する人気キャラクターが続々と登場してくる。

 その先駆となったのは、ソーントン・バージェスの動物を主人公とする短編童話であった。生態を活かした動物の擬人化に成功しており、一話ずつが一冊の作品にもなって愛読されていった。20年代になると、同じキャラクターを主人公に据えて、次々と、主題を変えて新しい作品を生み出していくシリーズが出てきたのである。数多いなかで、ウサギの“Little Jack Rabbit”や布の人形“Raggedy Ann”が活躍するシリーズは、多くの読者を獲得した。アンの人形は今日でも購入でき、著名なキャラクターに育っている。20年間に80冊近い作品のあるリューマチが痛む老ウサギ“Uncle Wiggily”シリーズは、それだけでも、この人気キャラクター成立に関する論文が書けるほどの変遷を辿っている。

 ニューベリー賞を受賞している作家ベイリーとセレディの二作品を取り上げているが、残念ながら、両者とも60年後の今日のアメリカで愛読されているとは言い難い作家になっている。

 幼年文学とは逆に、高学年向き、ヤング・アダルト向きの読み物にも、新しい作品がでてきている。そのひとつは、スポーツ物語である。バーバーは、フットボール試合を描いた作品を1904年に出版しており、その後、「スポーツもの」は、少年向き読み物の人気テーマとなっていく。少女向きとしては、多くのいわゆる「少女小説」が出てくる時代でもあったが、新しいタイプの作品として、142 Peggy Wayne―Sky Girl; ACareer Story For Older Girls, 1941という飛行機の乗務員として働く女性が主人公の物語が含まれていた。後に「職業物語」として形をなしていくが、まだ、時代はそこまで行っていない。

 幼年文学では、性別の影響を受けない動物が主人公であったが、学年が上がると、少年ものと少女ものに分かれてくる。少年ものの人気シリーズ“Jerry Todd”でその一端がわかる。また、1930年代の特徴のひとつとして、「少年探偵」や「少女探偵」の活躍するシリーズが、まるで工場で生産される製品のように次々と出版されたことがあげられる。「ベル・コレクション」には、少女探偵として人気を分け合ったナンシー・ドリューとケイ・トレイシーが活躍する物語が含まれている。

 また、「ベル・コレクション」には、映画の影響を受けて読まれたのではないかと推察される原作本も含まれている。それぞれに異なった成立理由を持つ三作を取り上げているが、映画の西部劇が衰退し、すっかり忘れられていた「ローン・レンジャー」は、2013年に、新しい脚本で映画化され、映画からのノベライズ本が出版されている。

4)伝承文学と知識の本

 「ベル・コレクション」には、神話・伝説や昔話の本格的な作品はあまり入っていない。アメリカの民話として著名な「アンクル・リーマス」の古い版が一冊あるが、1940年代に、ディズニー絵本になったり、おもしろいお話集に採られたりしていく。ロシア民話が二冊あり、イギリスで長く愛読されていて伝承のお話の宝庫である「十二色の童話集」の内、3冊が入っている。 知識の本も数が少ない。サイエンス教育が意識される時代ではあったが、具体的に作品とは結びつかなかったのかもしれない。科学読み物『現代のアラジンとその魔法』は、身近なものから科学の目を養う意図をもっていたし、『健康になる物語』もわかりやすく物語にして理解を得ようとしているが、あまりうまくいっていない。そのようななかでは、写真を使って汽船のすべてを紹介している『汽船の本』の手法は、当時の子どもの興味をひいたと思われる。

 イリーンによる『いま、何時ですか』は、英語以外の言語からの翻訳作品が殆どない時代に、わざわざロシア語から翻訳されており、科学読み物として、高い評価が与えられていたのがわかる。『ハサミと糊の工作』は、当時の子ども雑誌などで必ず掲載されていたような手近な素材を使った手作り本である。さし絵が美しく、古くなっていない珍しい一冊である。

5)詩の本:“Mother Goose”と A Child’s Garden of Verses

 リズムを楽しみながら、身体で言葉を覚えることのできる“Mother Goose”は、幼児のいる家庭でよく見かける。大部な豪華版から、子どものお小遣いでも買える安価なものまで多数出版されており、年代順に並べるとさし絵の変遷もわかってくる。ユーモアのある絵からモダン・アートのような絵まで、多種多様である。取り上げている唄もそれぞれに違っている。幼児教育の現場では、マザー・グースだけで、挨拶から勉強まですべて間に合うと言われており、英語世界への入門の機能も持っている。

 また、イギリスのスティーブンソンによる『子どもの詩の園』は、英語圏の子どもが最初に覚える英詩の入門書のような役割を果たしている。短い詩がひとつの世界を作っており、さまざまな感覚が刺激される詩集として、マザー・グースとともに、さし絵画家が、一度は挑戦したい作品なのである。

 アメリカの詩人の作としては、ユージン・フィールドのものがあげられる。子ども向きに編纂された詩集には必ず一編は収録されている詩人であるが、多数ある作品のなかから人気のある作品を選んだ選集が所蔵されている。

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