沿革・コレクション

アメリカから贈られてきた20世紀前半の子どもの本 ─ベル・コレクション調査報告─

3.ベル・コレクションの特徴

 ベル・コレクション」を年代で見ていくと、1920年までの作品は、出版事項を正確に入れる義務がまだ整っていない時代であるので厳密な数字ではないが約20作品ある。どれも稀覯書であるが、R. H.バーバーのスポーツ物語147(文中のゴシック体番号はベル・コレクションのコレクション番号)やソーントン・バージェスの動物物語169の先駆的な作品が含まれており、アメリカ児童文学の特徴があらわれ始めているのがわかる。絵本といえる作品は一冊も含まれていない。

 20年代でも絵物語が2、3作ある程度である。作品としては、カール・サンドバーグの本格的な伝記『エブラハム・リンカーン』の児童版33があり、幼年向きの人気シリーズとなったデビット・コーリーの「リトル・ジャック・ラビット」180が入っている。

 30年代は、世界恐慌の影響を受けて、出版界は不況、世界名作などの古典的な作品の再版などリスクの少ない作品が刊行されたというのが定説である。しかし、「ベル・コレクション」にはそうした作品は殆ど見られない。むしろ、写真を使った物語や絵本、限られた色数で刷られたリトグラフ絵本、特に乗り物絵本などに新しい時代が始まることを告げるような作品が目立っている。

 40年代は、不況を脱した後のベビーブームの時代である。「ベル・コレクション」の殆どがこの時代のもので、アメリカの子どもの本として、のちに国外で翻訳出版された作品が多く含まれている。ただ、戦時下であったことを語る本が一作だけあった。扉の裏の下部にアメリカ合衆国の国章であるワシが“Books AreWeapons In The War of Ideas”と書いた布をくわえたマークの入った“A Wartime Book”(116 Invitationto Reading 2, 1944)である。それは、読書に興味が持てない中学生のための国語読本である。アメリカにも、紙不足で統制があったのを知ったが、この作品以外に、戦争ものや戦争の影響が直接的に見られるものはなかった。

 また、教師の書棚から寄贈されたであろう多くの識字や読書指導に使用された教科書類とその解説書が含まれている。解題では取り上げていないものであるが、40年代のアメリカの国語教育に関心のある向きには、非常に興味深い資料だといえる。最も古い「副読本」は、1911年ロス・アンジェルスのThe Bolton Printing社刊Myra King, 226 Tales Out of Schoolである。カリフォルニア州刊行の26 New Amsterdam ColonialDays, 1942と27 New England Colonial Days, 1941は、歴史の教科書である。

 もう一つ、力不足で取り上げられなかった作品群がある。Friendship Pressの刊行物である。寄贈者は教会か伝道の仕事に携わっていた関係者と推測される。発展途上国の子どもを主人公にした写真や絵が入った物語である。アメリカからの伝道先やそこでどのような仕事をし、キリスト教徒として何を伝えようとしたのかがよく分かる。

 ベストセラー小説(170 The Bondman, 1890、279 The Calling of Dan Matthews, 1909、148 The Rosary,1910など)や映画の原作本など大人の作品も含まれており、これらも多様な「ベル・コレクション」の特徴の一つと言えるだろう。

 そして、「ベル・コレクション」の最大の特徴は、寄贈書の半分近くを占める絵本群にある。1942年創刊時には、カラー入り本としては安価な25セントで大量出版された“A Little Golden Book”は、20世紀内に20億万冊を売り上げた普及数では世界最大のシリーズに育っていく。その初期作品が119冊(44タイトル)ある。他にも、50セント絵本や安価なものが多く含まれていて、図書館では購入されなかった子どもの愛読書が多数含まれているのは貴重である。一方、絵物語が絵本らしくなっていく30年代の絵本史に残っている作品の初版本も含まれており、愛読されればされるほど、多くは消耗が激しくなり廃棄されてしまったであろう30年から40年に出版された多様な価値をもつ絵本群である。

 最後に、「ベル・コレクション」の調査をしていて、「岩波少年文庫」と「岩波子どもの本」の初期作品の原著がいくつか含まれていることに気が付いた。岩波のこの二つのシリーズは、1950年代から子どもに読まれただけでなく、日本の作家や画家にも大きい影響を与えていくが、特に新鮮だったのは、丁度、アメリカの子どもの本が黄金期に入る1930年代から40年代の作品の翻訳が多かったことであった。岩波のものは、The Horn Book Magazine が主な情報源だったため、その多くを「権威あるアメリカ子ども図書館が認めた本」から、選書され、翻訳されていたのだ。「ベル・コレクション」の調査を通して、これらのシリーズが多様なアメリカの子どもの本の一部を切り取っていたことがはっきりと見えたのも、想定外の収穫となった。

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