まちの図書館化をめざして-21世紀広島市図書館計画の提言-
4 目標と施策の展開
4-1 多様化・高度化する市民の情報ニーズに応える豊かな蔵書の実現(ワクワク図書館)
(1) 330万冊の蔵書の構築
・本提言で示した計画完了時に、市民一人当たり2.8冊、計330万冊(中央館169万冊、分館124万冊、公民館37万冊)の蔵書構築を目指す。これは、日本の大都市で最もサービス水準の高い東京特別区の住民一人当たり2.8冊を目標としたものである。
(2) 230万冊の蔵書の開架の実現
・全蔵書のうち230万冊(うち中央館70万冊)を開架して、市民がいつでも自由に手に取れるようにし、残り100万冊は中央館の書庫に保管し、求めに応じて提供する。
(3) 収集の具体的な内容を盛り込んだ図書館資料収集方針の策定と公開
広島市立図書館資料収集方針を作成し、公開して市民の意見を聞き、これに基づいた収集を行う。(「こども図書館資料収集方針」及び「まんが図書館資料収集方針」も含め、体系化する。)図書館資料の選択・収集は、市民が図書館に委ねている重要な任務である。したがって、多様な意見に配慮し、公平な資料選定に努める。収集にあたっては、市民の声を反映するために、モニター制度を設けるとか、利用者懇談会を開くとか、ホームページで希望を募るなどの工夫が必要である。
専門家などによる資料評価委員会(仮称)を設け、収集された資料について、個々の専門分野毎に、資料の質やバランスを評価する。
資料収集の考え方
(1) 中央図書館
広島市の中心館として、分館の支援並びに高度な学習や調査研究の専門図書館及び最終的な保存図書館という役割がある。
1 特別高度な学術書を除き、参考図書、専門書を含め、基本的な資料を網羅的に収集する。専門的資料の収集にあたっては、大学や専門機関などとの調整のうえ、効率的な収集を行う。
2 新刊出版点数のうち、児童書及び学習参考書を除く分野の90%を収集する。
3 外国語資料については、基本的なレファレンス・ブック及び在住外国人のための資料を中心に収集する。
(2) こども図書館
「こども図書館資料収集方針」に従って、継続して収集する。
(3) 区図書館(分室を含む)
身近な図書館として、日常生活のうえで必要とされるものなど実用・教養・レクリエーションに資するものを中心に収集する。新鮮な図書を維持するため、区図書館では毎年10分の1を、分室を兼ねる公民館図書室では5分の1を更新する。
(4) まんが図書館
「まんが図書館資料収集方針」に従って収集する。漫画の収集は広島の特色のひとつである。最近日本マンガ学会が誕生するなど、漫画の社会的評価も定着しつつあり、一定の文化状況を示すものとして、継続して収集に努める。
(5) 図書以外の資料
1 雑誌
中央図書館、区図書館ともに一般雑誌については、できるだけ幅広いジャンルにわたって収集する。中央図書館については、高度な学習や調査研究に資する専門学術雑誌などについても積極的に収集する。
2 視聴覚資料
視聴覚資料は、これまで収集していないので、新たな収集には相当な初期投資が必要であり、また、技術革新などによって媒体の変化が著しく先行きを見定めがたいため、原則として新規の収集はしない。今後、映像文化ライブラリーの在り方と共に検討する。
4-2 広島の個性となる資料・情報の収集・創造・発信(ワクワク図書館)
(1)平和・原爆・広島文学・郷土の資料に特化したコレクションの拡充と保存体制の整備
中央図書館は、広島に関する地域資料を網羅的に収集する。特に原爆・平和に関する資料は世界に向けて発信できるよう、系統的、積極的に収集する。広島にゆかりの深い文学者の資料については、網羅的収集を心がけるが、将来的には、保存・活用のための専門施設(文学館など)の確保が望まれる。行政資料のうち広島市の刊行物は網羅的に収集し、国、県、他市町村については、広島とかかわりの深いものを中心に収集する。収集した資料をいろいろな観点で編成し、広島にかかわりの深い人物の文献リストの作成・提供など新たな価値を付加して発信する。
平和に関する資料は世界に向けて発信できるよう、系統的、積極的に収集する。広島にゆかりの深い文学者の資料については、網羅的収集を心がけるが、将来的には、保存・活用のための専門施設(文学館など)の確保が望まれる。行政資料のうち広島市の刊行物は網羅的に収集し、国、県、他市町村については、広島とかかわりの深いものを中心に収集する。収集した資料をいろいろな観点で編成し、広島にかかわりの深い人物の文献リストの作成・提供など新たな価値を付加して発信する。
こども図書館は、児童向けの地域資料・原爆・平和関係資料、広島の児童文学資料を収集する。
分館は、広島市及びそれぞれの地域にかかわりの深いものを中心に収集するほか、原爆・平和に関する資料を収集する。
(2) 電子媒体の積極的活用や図書館情報のデジタル化の推進
広島文学資料のデータベース化やレファレンス事例などのデジタルコンテンツ化を積極的に進める。
広島文学資料や、歴史資料のうち閲覧が困難な貴重な資料などのデジタル化(デジタルアーカイブの構築)を進める。
4-3 次代につなぐ図書館資料の保存・管理体制の整備(ワクワク図書館)
1 図書館資料が市民の共有財産であるという認識を深めるため、市民に対する啓発に努める。
2 貸出手続確認装置などの機器を設置して紛失を防止し、延滞本の回収策を講じるなど、図書館資料の良好な保存・管理に努める。
3 図書館資料の適切な管理のため、死角をなくすなど施設面の改善を行う。
4-4 市民が求める情報ニーズに対応するための迅速で質の高いレファレンス・サービスの提供(ラクラク図書館)
(1) インターネットを活用した図書館サービスの実現
インターネットにより、市民がどこからでも図書などの検索・予約、レファレンス・サービスが受けられるよう図書館のIT化を進める。館内で利用者自身によりインターネットの情報が入手できるよう機器の整備を進める。更に、利便性の向上を図るため、パッケージ型電子資料(CD-ROM)の収集や有料データベースの導入を図る。図書館ホームページを充実させ、原爆資料・広島文学資料など広島に関する地域資料や図書館に関する様々な情報を発信する。
(2) 大学図書館・専門機関及び他の教育・文化施設との連携と情報ネットワークの形成
サービスの質を向上させるため、大学図書館をはじめ専門情報を有する機関や施設との連携・協力は欠かせない。このため、1 利用手続きの公開、2 資料所在リストの交換、3 インターネットによる横断検索などの整備、4 職員の情報交換や交流のための連絡組織の立ち上げなどを進める。
(3) レファレンス・ライブラリアンの養成
レファレンス・サービスを中心的に担う中央館では高度で専門的な資料・情報を提供するため、専門知識と熟達した技能を持つレファレンス・ライブラリアンを養成する。また、情報機器の操作、情報の評価・取捨選択など情報処理能力の向上を図る。
4-5 サービスの個別化・利便性の向上とアクセス環境の充実(ラクラク図書館)
(1) 貸出・返却方法、開館日などの制度の見直し
貸出・返却の利便性の向上を図るため、1 貸出期間の延長や貸出冊数の増加の検討、2 広島バスセンターや広島駅など交通の結節点への図書返却ポストの設置、3 将来的には、公民館で図書館の本を返却や予約ができるよう制度の見直しを行う。
人々の生活様式の多様化、余暇時間の増加など社会変化に対応するため、開館日の拡大や夜間開館など開館時間の延長を検討する。
非来館での図書館利用の要望に応えるため、インターネットにより24時間利用できる本の検索や予約などを実施し、それに伴う宅配便、郵便やコンビニを活用した貸出・返却システムを検討する。
(2) さまざまな人々へのサービスの充実
高齢者、障害者、外国人などへのサービスの充実
高齢者、障害者、外国人など図書館利用の上で配慮を要する人々へのサービスを充実する。
1 電話、FAXでの所蔵調査、予約受付、レファレンス・サービスの実施、2 大活字本、録音資料、外国語資料などの充実、3 館内設備、利用案内、書架表示、利用者用端末機などの設備の改善、4 自動車による高齢者施設や障害者施設への配本や読書普及活動の実施などを推進する。
子どもの成長を支援するサービスの充実
子どもの読書による健やかな成長を図るため、乳幼児やその保護者を対象としたおはなし会や保健センターなどでの乳幼児検診の機会を活用した事業などを充実させる。
児童サービス、ヤングアダルトサービスの充実
少子化や学校完全週5日制などのなかで、こども図書館を中心にして、1 子どもの読書活動を推進するための様々な事業の拡充、2 ヤングアダルトコーナーの設置や中学生・高校生によるおはなし会の拡充などを図る。
4-6 くつろぎの快適空間の創出(ニコニコ図書館)
(1) 快適な読書空間の提供
利用者がくつろいだ雰囲気の中で図書館を利用できるよう、1 開架冊数の増加、2 本や雑誌を読めるスペースの充実、3 飲食などサービス施設の充実、4 小さい子ども連れの利用者が安心して利用できるような施設上の配慮、5 少人数のグループで読書や談話ができるようなスペースの確保などを行う。
(2) 自然環境を活用した読書空間の整備
公園に隣接するなど緑が豊富な恵まれた自然環境を有している図書館にあっては、こうした自然環境を活用し、緑陰読書空間を提供するなど、市民がくつろぎながら本とふれあえる空間を提供する。
4-7 市民が楽しさを共有しあい、ふれあう学習・交流・活動の場づくり(ニコニコ図書館)
(1) 生涯学習機関との連携の強化・コミュニティ文化活動の支援
市民の生涯学習活動やまちづくり活動を支援し、また、市民の図書利用の利便性向上を図るため、市民の活動・交流の場・機会の提供や公民館事業との連携を強化する。また、さまざまな生涯学習機関における市民の学習活動に対し、関連した本やブックリストを提供するなどの支援を行う。
(2) 学校教育との連携の強化
学校と連携を強化するために、学校関係者との協議組織を設置する。
学校訪問、図書館招待、資料の案内など学校教育への支援を強化する。
情報活用を図るため、学校ネットワークとの連携を進める。
(3) 読書普及活動の推進
読書普及活動を契機として図書館を利用しはじめる人、読書の幅や深みを増していく人も多く、読書普及活動は図書館の重要な業務の一つである。このため、1 定期的な講座の開催、2 生涯学習機関と連携した講座の開催、3 読書会、4 展示会など時代の変化に対応したさまざまな種類の読書普及活動を実施する。
(4) 図書館の利用の促進
図書館利用を拡大していくために、図書館利用講座を開催したり、さまざまな機会に図書館の側から積極的に出向いてPRするような活動を推進する。
4-8 身近できめ細かな図書館サービスを受けられる適正な図書館配置(ニコニコ図書館)
配置の考え方
(1) 市民がどこに住んでいても身近できめ細かな図書館サービスが受けられるよう、適正な図書館配置を形成する。
(2) 図書館配置にあたっては、市民の日常生活における図書館の窓口となる分館(分室)を優先して整備し、その上で、分館をバックアップし、市民の高度な学習や調査研究に専門的に応える中央図書館を整備する。
(3) 分館(分室)の配置にあたっては、行政区にこだわらず、人口密度、地域特性、交通手段など市民の利便性を最優先する。
(4) 施設の整備にあたっては、やすらぎ、交流、活動の場の機能充実やバリアフリー化の推進に配慮する。
(1) 中央図書館の建て替えと機能強化
市立図書館全体の総合調整や全市のレファレンス・サービス、資料保存などの中枢的な機能の充実、調査研究図書館としての広島文学資料やその他の専門的資料の充実、市民のやすらぎとゆとりの場、交流の場、活動の場としての機能の充実などを図るため、新中央図書館として改築再整備する。新中央図書館の再整備にあたっては、事務管理、人事組織管理、財産管理などの図書館行政の効率化や、家族利用者の利便性の向上を図るため、現在の中央図書館、こども図書館、まんが図書館の機能を強化する方向で統合する。
(2) 都市機能や人口が集積し、交通の利便性が高い地区への分館設置
1 図書館が未整備の「広域拠点」4ヵ所及び「地域拠点」2ヵ所に、現在の区図書館レベルの機能と交流の場の機能をあわせもつような分館を整備する。
  (広域拠点)
宇品・出島地区(南区)、西部商工センター地区(西区)
広島インターチェンジ周辺地区(安佐南区)
西風新都地区(安佐南区〜佐伯区)
  (地域拠点)
高陽地区(安佐北区)、己斐・福島・天満地区(西区)
2 まんが図書館は、現在、比治山のほか、附属施設としてあさ閲覧室があるが、広島市の特色として充実していくこととし、地域的なバランスを考慮して、あと2ヵ所程度新たに整備する分館に付置する形で整備する。
3 分館の整備は、既に日常的な生活圏を形成している「地域拠点」を優先し、「広域拠点」については、開発の進度や人口、交通機関の整備状況などを総合的に勘案し、図書館整備の必要性が高まった時点で整備を進める。
(3) 公民館図書室の図書館分室化・オンライン化の推進
中学校区ごとに公民館が設置されているという広島市の特色を活かし、公民館をきめ細かな図書館サービス網形成の拠点として位置づける。当面、図書館サービス空白地域の解消を図るため、遠隔地の公民館の図書室について、蔵書の充実や図書館とのオンライン化を行うことにより、「図書館の分室」としての機能を整備する。具体的には、既存の区図書館や今後整備を提案している広域拠点4ヵ所、地域拠点2ヵ所の分館から半径5km(自転車などで概ね30分以内)の圏外にある白木公民館、安佐公民館、戸山公民館、阿戸公民館、瀬野公民館、似島公民館の6館を整備する。その他の公民館については、これまでの配本所としての機能に加え、図書館の本の返却や予約ができるシステムを構築し、将来的には図書館とのオンライン化を進める。
(4) 高齢者施設などへの配本機能の強化
利用が減少している地域巡回型の自動車図書館サービスや地域文庫を縮小し、かわりに、来館が困難な高齢者や障害者に対するきめ細かなサービスとして、高齢者施設や障害者施設などへの入所者に対する自動車図書館による配本サービスを提供する。
4-9 市民との協働による開かれた活力ある運営体制の確立(イキイキ図書館)
(1) 図書館ボランティア講座の開設
図書館ボランティアの役割を明確にし、そのために必要な知識や技術の習得のための図書館ボランティア講座を開設する。入門講座及び一定経験を経た後、さらにスキルアップを図るための研修講座を設ける。
(2) ボランティアの受け皿づくり
図書館ボランティアを受入れ、市民との協働を進めていくために担当職員を配置する。ボランティア活動のメニューや活動マニュアルの作成など導入計画を策定し、ボランティアが活動しやすい環境を整備する。
4-10 効果的な組織づくりと透明性の高い効率的な運営(イキイキ図書館)
(1) 効果的・効率的な管理運営組織
サービスの質の向上を図り、かつ管理上の効率性や便宜性を考慮すると、中央館、分館を含めて一体的な管理運営が望ましい。どういう形で一体化するかについては、各館の特徴も考慮しながら、今後慎重に検討する必要がある。
(2) 専門的職員の確保
1 中央図書館及びこども図書館の職員配置については、司書資格を有し、企画力、指導力、調整力などに優れた職員を確保し、図書館運営の中核に位置付ける。人材確保の方法としては、司書有資格者の採用や外部人材の選考採用、庁内公募などが考えられる。
2 分館などについては、管理運営の委託先である広島市文化財団と協議しながら、司書資格を有する者の採用を積極的に進めるなど、専門的職員の確保に努める。
3 職員数については、図書館サービスに必要な人数を配置する。
(3) 職員の育成
1 専門的職員については、資料・サービスに関する知識や技術及び経営管理について継続的な能力開発を行うため、専門研修への派遣や、図書館以外の職場を経験させるなどの工夫をする。
2 市民サービスの最前線を担う図書館職員に対して、中央館、分館を含めて、市民サービスに徹するような継続的な研修を行う。
(4) 市民とのコミュニケーションの充実
1 図書館を正しく市民に知らせ、十分に使いこなしてもらうため、ホームページの充実による図書館情報(催しもの、新着図書目録や本の紹介など)の発信、図書館利用登録者へのメールマガジンの配布、広報誌の充実、図書館招待の充実、地域の社会教育・文化団体への働きかけなどの広報活動を積極的に行う。
2 市民の要求を知り、図書館の改善につなぐため、館内に投書箱を設けるとともに、ホームページに市民からの投書のためのページを設けるなど、広聴活動を充実させる。また、利用者アンケートを継続して実施する。
(5) 経営的な視点から業務の効率性を向上させるための評価システムづくり
1 年度ごとに、運営方針、運営目標、目標値を体系的に設定し、自己点検と自己評価を行って公表する。図書館協議会に評価を求めることも必要である。
2 規程類を見直し、欠けているところは補って整備する。特に資料収集方針は重要であり、できるだけ早く策定し公表する。また業務マニュアルについて早急に整備する。なお、規程類は、時代の変化や諸条件の変動に応じて適宜改定する。
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