まちの図書館化をめざして-21世紀広島市図書館計画の提言-
2 広島市図書館の現状と課題
2-1本の収集・保存
(1) 図書館資料の収集方針の具体的な内容を成文化したものがない。
現在、中央図書館、こども図書館、まんが図書館、それぞれが一定の方針のもとに資料収集を続けている。しかし、収集要綱としての基本方針は定められているが、それは極めて一般的な方針表明にとどまっており、収集方針の具体的な内容を成文化したものがない。収集方針は図書館運営の根幹をなすものであり、早急な作成が必要である。
(2) 「新刊書」・「専門書」ともに十分でない。
市民アンケート調査で充実して欲しい資料として、「新刊書」が41.4%、「気軽に読める読み物」が31.5%である。また、来館者アンケート調査では、「新刊書が少ない」という人が66.7%である。これらの要望に対しては主に身近な図書館である区図書館が応えていく必要がある。また、市民アンケート調査で充実して欲しい資料として、「専門書」が 24.9%、来館者アンケート調査では、中央図書館について、「専門書に対する不満」が60.0%と圧倒的に多い。中央図書館は、区図書館のバックアップとともに、調査研究図書館として全市民を対象にしたサービスを受け持つ役割があり、専門書などの要望に対しては中央図書館が応えていく必要がある。一方、雑誌や新聞は図書に較べて情報が新しいため情報収集の有力なツールであり、特に専門学術雑誌などは調査研究を進める上で欠かせない資料である。整備された他都市の図書館では近年、雑誌の充実を図る方向にあるが、広島市においてはいまだ十分でない。各図書館において充実する必要がある。
図:図書資料整備についての要望(全体)
(3) 原爆資料、広島文学資料など郷土に関する資料が十分に活用されていない。
中央図書館における蔵書85万冊のうち、館内サービス用が54万冊、自動車図書館や公民館などの地域サービス用が31万冊である。館内サービス用のうち広島資料室関係(被爆文献資料、広島文学資料を含む)が約8万冊あ るが、その存在を知らない人も多く、地域に十分に活用されているとは言いがたい状況にある。長年にわたり蓄積した広島資料室関係の郷土に関する資料は、広島市の図書館独自の資料として特色を有するものであり、この有効な活用を行う必要がある。
(4) 本を大切に扱うなどモラルの向上や適正な管理が求められている。
平成10年度から12年度までの過去3年間の図書の除籍状況をみると、毀損・汚損によるものが9.8%、不明(紛失・未返却)が25.0%、不用複本が65.2%となっている。本の管理は、今後様々な図書館サービスを提供していく上での基本となるものであり、特に不明本について具体的な対策を講ずるとともに、利用者に対してモラルの向上について啓発していくことが必要である。
2-2 保存サービスや制度
(1) 市民が資料や情報を探す手助けをするレファレンス・サービス(調査研究支援サービス)が十分でない。
広島市では、区図書館において簡易なレファレンス・サービスを、中央図書館・こども図書館・まんが図書館において専門的なサービスを行っている。学習や調査研究を支援するレファレンス・サービスは、貸出サービスとともに図書館の重要なサービスであり、今後は、専門職員の育成と合わせて、専門的資料やITを駆使した中味の濃いサービスを提供する必要がある。
(2) インターネットなどITを活用した利用者サービスが十分でない。
広島市の図書館コンピュータ・システムは、1983年の稼動以来、小規模な修正しか行っていないため、来館者アンケート調査を見ても蔵書検索用コンピュータに対し、「やや不満・不満」とする人が36.6%となっている。市民アンケート調査においても、「家庭からインターネットで図書館の本の検索や予約・質問ができるサービス」が31.8%と最も多く、サービスのIT化が求められている。
図:サービスについての要望(全体)
(3) 本の貸し借りに不便を感じている市民が多い。
市民アンケート調査での図書館を利用しない理由をみると、「借りたり返したりが面倒 32.5%」「近くにない、又は行くのが不便 30.5%」「本は買ったり人から借りて読む 27.6%」「図書館を利用する時間がない 26.6%」の4つが大きな理由となっている。このため、今後、きめ細かな図書館配置とともに、貸出・返却が便利に行えるような方策が必要である。
図:公立図書館を利用していない理由(全体)
(4) 開館時間の延長や本の貸出期間・貸出冊数の拡大を望む市民が多い。
市民アンケート調査によれば、改善して欲しい制度として、「開館時間をもっと遅くまで」という人が26.7%ともっとも多く、「1回あたりの貸出期間を延ばす」という人も20.5%ある。また、「1回あたりの貸出冊数を増やす」という人も4.9%いる。また、最近1年間図書館を利用していない理由として、「図書館を利用する時間がない」という人が26.6%で大きな理由の一つとなっており、「開館時間には利用できない」という人も10.3%ある。
人々の生活様式の多様化や余暇時間の増大などの社会変化に対応して、開館日の拡大や開館時間の見直し、貸出期間の延長や貸出冊数の増加など、様々な人が利用しやすい制度となるよう見直しが必要である。
図:施設や制度についての要望(全体)
(5) 子どもや高齢者・障害者・外国人など利用者に応じたきめ細かなサービスが十分でない。
市民アンケート調査によると、「一度も公立図書館を利用したことがない」人の割合は、全体では32.8%に対し、60歳以上の男性の場合52.0%、女性の場合51.4%と他の年齢層に比べてかなり高くなっている。高齢化社会の進 展にともない、高齢者に対応した図書館サービスを再検討する必要がある。障害者や外国人への図書館サービスは、広島市においては、あまり積極的に取り組まれてこなかった。全国の図書館の中には、これら「図書館利用に障害のある人々へのサービス」に積極的に取り組んでいるところもあり、職員の意識啓発を含めてこうした人々へのサービスを充実していく必要がある。
図:公立図書館の利用状況(性×年齢別)
2-3 図書館施設とその配置
(1) 図書の開架や保存スペース、市民の活動、交流、くつろぎのスペースが十分に確保できないなど、施設面の制約が多い。
中央図書館は、建築後およそ30年が経過し、施設の老朽化が進んでいる。形状も階段が多く閲覧室が分散しているため、特に高齢者や障害者にとって利用が不便である。中央図書館、こども図書館、区図書館、まんが図書館とも開架図書のスペースや蔵書の収容能力が限界となり、今後、資料の保存機能が果たせなくなることが懸念される。また、市民がくつろげるようなスペースも十分にとれていない。さらに、中央館としての機能をもった中央図書館とこども図書館が離れた場所にあるため、家族連れでの利用などにも不便な面がある。今後、資料保存機能の充実を図るとともに、利用者にとって図書館が活動、交流、くつろぎのスペースとなるよう、中央図書館を中心として施設の建て替え・統合などを検討する必要がある。
(2) 都市づくりの方向(多心型都市づくり)と整合のとれた図書館配置となっていない。
広島市では、第4次基本計画において、「多心型都市づくり」を進める方針を掲げ、「都心」「広域拠点4ヵ所(広域的な交通結節点で高次都市機能を分担する拠点)」「地域拠点8ヵ所(日常的都市サービスの拠点)」からなる拠点地区を設定し、各地区の特性や役割に応じた都市機能の適正配置とその充実・強化を図ることとしているが、広域拠点4ヵ所及び地域拠点2ヵ所に図書館がなく、図書館サービスが行き届いていない。日常生活に密着した図書館サービスを市民に平等に提供するためには、区図書館に加え、地理的な条件などを考慮しながら分館の整備を行い、図書館配置の充実を図る必要がある。
多心型都市づくりの推進方向図
(第4次広島市基本計画より)
(3) 市域周辺部で図書館利用の不便な地域があり、公平な図書館サービスの機会が確保されていない。
市民アンケート調査をみると、図書館を利用しない理由は、「借りたり返したりが面倒 32.5%」、「近くにない、又は行くのが不便 30.5%」、「本は買ったり人から借りて読む 27.6%」、「図書館を利用する時間がない 26.6%」という順となっており、近くに図書館がなく行くのが不便というのが2番目に多い。また、図書貸出利用券の登録率や貸出冊数の地域分布をみると、現在の区図書館との地理的な条件により、利用率や貸出冊数が著しく低い地域があり、地域による格差が生じている。図書館から離れた地域にも公民館図書室があり、図書館から配本されているが、貸し借りの処理が図書館の本と同様なシステムにできないため、サービスポイントとしては不十分である。今後、公民館との連携強化などにより、図書館利用が不便な地域への図書館サービスを充実していく必要がある。
2-4 市民参加と運営
(1) ボランティア活動は、おはなし会や朗読サービスなどが中心で、それ以外の受け入れ体制が十分でない。
中央図書館とこども図書館でボランティアの養成講座を行っているが、図書館事業におけるボランティアの位置づけが明らかとなっていない。ボランティアの活動メニューや業務範囲、活動マニュアル、年間計画、養成や研修の方法、図書館のなかでのボランティアの位置づけを明確にした導入計画が必要である。また、導入計画にもとづき、必要な知識や技術を習得するための研修を継続して行うことも必要である。
(2) 図書館の運営目標や達成状況が市民にわかりやすく示されていない。
「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年7月、文部科学省)には「各々適切な「指標」を選定するとともに、これらに係る「数値目標」を設定し、その達成に向けて計画的にこれを行うよう努めなければならない。」「前項の「数値目標」の達成状況に関し自ら点検及び評価を行うとともに、その結果を住民に公表するよう努めなければならない。」とあり、目標設定と点検・評価の必要性が述べられている。広島市においては、運営方針や目標値が個々に定められているが、関連性が明確でない。総合的な評価の視点から関連付けた設定が必要である。その上で、点検し、評価して、その結果を明らかにすべきである。また、サービス内容の評価の中には、数字で表現することが困難なものもあり、図書館協議会に報告して議論を経るなどの一層の工夫が必要である。
戻る
Copyright (c) 2005 Hiroshima City Library All Rights Reserved.