畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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かとって だたろうびどー も フォア・ポスターストール・キャナピィトラックル・ベッドは持ち続けていた。二人はこの新来客を食堂へ案内した。そこで客はテーブルの上へ書類の函を置き、二人へ振り向いて、その語るところに驚きの面おもちで聞き入った。彼はあまたたびうなずいた。軽く両手を投げ出した。それは、今晩は泊って休息していただきたいという勧めを断わっているように見えた。そして二三分とたたぬうち、彼は静かに階段を降り、馬車を駆って去ってしまった。青繻子の男は、階段の上から彼を見送ったが、陰険な微笑が、見る見る彼の肥った蒼白い顔にあらわれた。馬車の火が見えなくなると、あたりはすっかり暗くなった。 だが、ディレット氏は、ベッドに起きあがったままでいた。彼は当然そこに、この続きがあるべきだと考えた。人形屋敷の正面は、またしばらく微光を放った。だが、こんどはちがっているところがあった。灯火はほかの窓にともった。一つは屋敷のてっぺんに、他のものは礼拝堂の並んだ色硝子の窓を輝やかした。これらの窓越しでは、十分はっきりは見えなかったが、彼は頑張った。 部屋の中は、この建物の他の部分と同じく、用意周到に家具が飾り立てられていた。デスクの上にはこまかな赤いクッションもあるし、ゴシック式の僧座天蓋もあるし、西欧的な柱廊、金管のついた尖塔型のオルガンもあった。黒白の鋪た床きのまん中には、一つの棺台が据えられ、その四隅には長い蝋燭が燃えていた。棺台の上には、黒天鵞絨の棺パ衣ルがかけられていた。 ディレット氏が、その棺衣の襞ひへ眼をやった時、棺衣はユラユラ、動いた。一端がムクムクもちあがるように見えた。と、それはスルスル滑り落ち、銀の把手と名札のついた黒い棺があらわれた。背の高い燭台の一つが傾いたかと思うと、カタンとひっくりかえった。 ディレット氏が、あわてて不審立てした以上に不審立てしないで、屋敷のてっぺんの、灯あ火りのついている窓をのぞいて見るがいい。そこには、男の子と女の子が、二つの輪附寝台にねころんでいた。そして乳母の四柱寝台が、それより高く聳えていた。乳母はその時は見えなかった。子どもの父と母が、そこにいて、今喪服を着ているところだっ― 94 ―

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