畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ひきだしくえ ・・達・は、もうあれを持っちゃならない。まあまあ、あり難いことさ。』 『うむ。お前がそう思うなら、わしも、あの人が自分で進んで、あれを買ったのだと思うよ。まあなんにしても、わし こうして、チッテンデン夫婦は、お茶を飲んだ。 一方、ディレット氏と、その新らしい掘り出し物にはどんなことがあったか?新らしい掘り出し物が何かということは、この一篇の標題でわかって頂けるだろう。そしてそれが、どんなふうの物だかということについては、筆者はできるだけ詳しく、説明しなければなるまい。 馬車の中はそれを入れると一杯になった。で、ディレット氏は、馭者と並ばねばならなかった。また馬車はゆっくり進ませなければならなかった。というのは、この雛人形の屋敷は、どの部屋も、注意してやわらかな綿が詰めこまれてはいたが、中には沢山の小さなものがこみあっているので、ガタつかないようにしなければならなかったからである。そして、ディレット氏は、十分大事はとったものの、家に着くまでの十哩の間は、心配しつづけだった。やっと玄関に着くと、コリンズという召使が出て来た。 『おい、コリンズ、これを運ぶんだ。手伝ってくれ。―慎重にやるんだぞ。まっすぐにして持って行くんだ。わかったね?この中には、どんなにしても動きやすい、こまかなものが一杯あるんだからね。待てよ。どこへ置いたもんかな?(ちょっと考えたあとで)そうだ、とにかくはじめ、わしの部屋へ置こう。その大テーブルの上―そうだ。』 それは、言葉沢山に、二階の、通路を見おろす、ディレットの広間へ運ばれた。包み紙がほどかれると、その前面がパッとあらわれた。一二時間というもの、ディレット氏は夢中で、人形屋敷の部屋の内容の順に従い、詰め物を抜き出した。 この綿密な愉快な仕事が終った時、ディレット氏の大きな抽斗卓づの上に聳え立ったものは、ストローベリー・ヒル・ゴシック式に作られた模型の人形屋敷としては、これ以上完全で、これ以上興味あるものは、見つけることが困難だ― 88 ―

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