畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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’’’ ’’’ ょうかたびらブラース 諸君は、教会堂にある、経き帷子を着た人間の形の、古めかしい黄銅像を、御覧なさったことがありますか?それはあたまのてっぺんを、妙なふうにたばねられている。まあそれに似たような或るものが、墓地の、プールには十分おぼえのある地点から、スーッと立ちあがった。プールはベッドに身を投げて、息を殺した。 間もなく、“或るもの”は、窓扉を、いかにも力弱げに、ガタガsタ鳴らした。恐ろしい嫌悪に駆られて、プールはその方へ眼をむけた。おお!彼と月光との間に、妙にたばねた頭をした黒い輪郭があった・・・・かと思うと、もうそのかたちは部屋の中にいた。 床板の上の、乾いた土は、カラカラと鳴った。低い、ひび割れた声が言った。『どこにあるか知ら?』―そして、やっとあるけるような、よろめく足どりで、ここかしこをあるいた。 ちらちら見ることができたのだが、それは、部屋の隅々をのぞきまわったり、椅子という椅子の下へかがみこんだりした。とうとう壁の戸棚の扉をいじくりかけたかと思うと、ガタンと跳ね開ける音がした。つづいて、からっぽの棚を、長い爪でガリガリひっ掻く音 ―そのかたちは、ベッドのぐるりを飛びまわったが、一瞬立ちどまり、しゃがれた声で叫んだ。― 『お前が、とったのだね!』のだが)ならば―並なみ居る侍女のうちの、いちばん年弱なのを目がけて、だしぬけにワッと叫んで飛びつく。その侍女もおなじく、あれえ!と叫ぶ。母なるハーマイアニ王妃は、すぐ王子をつかまえて、噴き出したくなるのをこらえながら、きびしくゆすぶり、軽く打ってたしなめる。恥じて顔をあからめ、やや泣き出しそうになった王子は、早くもベッドへ送られようとする。だが、やっと驚きから気をとり直した年弱な侍女のとりなしで、王子は、どうにか、いつもの寝る時間まで、そこにいることを許される――という段取りだったろう。 そして、その時間までには、王子もまた機嫌を取り直し、みんなに“おやすみ”を言いながらも、まだこれより三―ここでシェークスピアのマミリアス王子(この王子は、この話よりもずっと短かい話をしただろうと筆者は思う― 81 ―

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