畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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たいまつ どうやらほんとうらしい噂だったが、彼は他方、たしかに病的な男だった。その頃は、夜、松明のあかりで埋葬を行うのが普通だった。そして、葬式が近かづくと、ジョン・プールは、誰よりもよく見ようとするように、階下か階上の窓に立つのが常だった。 ある晩のこと、一人の婆さんが葬られることになった。彼女はかなり裕富だったが、この土地では嫌われ者だった。いつも言われていたことだったが、彼女は基督教徒ではなく、夏至祭〔六月二十四日〕だとか、万聖節〔十一月一日〕のようなお祭の晩に、家にいてお祈りをしていたことはなかった。彼女は血走った眼をしていて、それは見るも物凄かった。どんな乞食だって、彼女のドアをたたいて憐れみを乞わなかった。しかし、彼女は死にあたって、教会へ寄進の金を残していた。 彼女の埋葬の夜は、ひどい天候ではなかった。いやむしろ、美しくおだやかな天候だった。棺舁きや松明持ちの賃金を、普通よりもずっと多くきばって死んだのだが、そうした役をする人を雇うことが、少々むずかしかった。屍体は棺なしで、毛布にくるまれたまま埋められた。ぎりぎり入用な人数だけしか、そこにはいなかった。―そしてジョン・プールは例のごとく窓からのぞき出していた。いよいよ墓に土をかぶせようとする時、牧師はかがんでなにかに滅ぶ。』と、言ったようだった。 それがすむと、牧師は急ぎ足に去った。葬儀に列した人達も去った。あとにはただ一人の松明持ちが、ショベルで土を掻き入れる墓守とその子を照らしていた。彼等は十分な仕事はしなかった。で、翌日、それは日曜日だったが、教会の参詣人達は、墓地にひどくゆるんだ墓があると言って、ちょっと墓守を咎めた。墓守は自分で行って見たが、事実、彼がやったよりも、もっと悪い状態になっていると思った。 ちょうどその時分、ジョン・プールは、半ばうれしげな、半ばいらいらしたなんだか妙な様子で、そとをうろつい―チリンと音のするものを、屍体の上に投げた。そして低声に『なんじが金銭はなんじととも― 79 ―

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