畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
78/172

スプライト 御承知の、シェークスピアの作品中で、もっともいい子であるマミリアス〔喜劇“冬物語”に出てくる早熟ではあるが可憐な子供。シシリー王レオンティーズと王妃ハーマイアニの間に生まれた小王子。母の無実の罪を悲しむのあまり死す。〕が、母なる王妃と侍女達に、地精や悪鬼の話をはじめるところがある〔第二幕第二場〕。そこへ嫉妬に駆られた王が衛兵を引きつれてやって来て、王妃を牢獄へ送るのであるが、この地精や悪鬼のことは、話しかけになったままで、その後間もなくマミリアス死んでしまうのである。 で、その話が、続けられていたら、どんなふうだったろう?いうまでもなく、作者のシェークスピアならで知る由もないが、私は大それたことながら、その話を続けてみよう。べつに新味を見せようとするのではない。それは諸君が、もっともありそうな事として聞かれた話、言われもした話の一つなのである。誰だってその話を、思いのままの形に仕立てることができる。が、私の話はこうなのだ。―をのぞき出し、裏の窓は墓地に面していた。その家は嘗ては教区の司祭の所有だった。しかし(これはエリザベス女王の時代〔十六世紀の中頃から終まで〕のことだったが)その司祭は結婚していたので、もっと部屋がほしかったし、その上、彼の妻は、夜寝室の窓から墓地の見えるのを、嫌がっていた。彼女は見たといった―だが、彼女がどんなことを言ったかは、お気にかけられないでよろしい。とにかく、彼女はのべつに騒ぎたてるので、司祭もとうとう、村の通りの、ある大きな家へ引越すことにした。そしてそのあとへ、ジョン・プールというやもめ男がはいって、一人で暮すことになった。かなりの年輩だったジョン・プールははなはだ引っ込み思案で、いくらかケチな男だと噂されていた。―ある教会の墓地のそばに、一人の男が住んでいた。彼の家は、下層が石造で、上層が木造だった。表の窓は往来ゴブリン墓地のほとり― 78 ―

元のページ  ../index.html#78

このブックを見る