畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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あかり ら いちい 私の友人―この話の聞き手の一人―は、その小函を開けてみた。中から飾りのついた細い金鎖が出て来た。彼はその飾りをもっとこまかに調べるため、眼鏡をはずした。『これにはなんか由来があるのかね?』と訊くと、『それがまったく奇妙なことでしてね。あなたは、あの潅木林の中の、水松の茂りを御存じでしょう?一二年前のことでしたが、私達は、ここの空地にある古井戸を浚さえたのです。そこからなにが出たと思います?』という答えだった。 『屍体が出たとでもいうのかね?』と、友人は、変に神経過敏になって言った。 『ええ、そうです。屍体が出たのです。しかも―とんでもない話ですが、二つまで屍体が出たのですよ。』 『ほう!二つもね?どうしてその二人が井戸に落ちたのか、わからないのかね?この金鎖は、それといっしょに出て来たのかね?』 『そうですよ。一人のほうが着ていた、ぼろ着物の中から出て来たんです。どんなわけがあるのか知りませんが、嫌なことですよ。一方の屍体が両手で、もう一方の屍体に、しっかりからみついていました。二つの屍体は、三十年かそれ以上も、井戸の中にいたにちがいありません。―私達がここで宿をはじめたよりも、ずっと前のことですよ。あなたは、私達がその井戸をしっかり埋めてしまったことは、御想像がつくでしょう。あなたは、手にお持ちのその金鎖の金貨に、どんなことが彫ほりつけてあるのか、おわかりでしょうか?』 『ああ、わかりそうだね。』と、友人は、それを灯火にかざしながら、(だが、べつにさほどの困難もなくその文字を読んで)言った。『G・W・S―一八六五年七月二十四日―と彫ってあるらしいな。』― 74 ―

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