畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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venerisadme,ego veniamad tei tunon 『するととうとうまた一つ、僕が今言ったと同じような出来事が起つた。―その日以来何度か、学校で、僕たちはラテン文法のいろんな規則を学ぶために、例文を作らなければならなかったが、僕達は、まちがった文章を作った時のほかは、先生からお小言を受けたことはなかった。そのうちに、ある日僕達は約束法という、めんどうな文法にとりかかることになり、それを未来形であらわす文を作れと、いいつけられた。僕達は、出来たり出来なかったりの答案を提出した。サムプソン先生は、それに目を通しはじめられたが、たちまち椅子を立って、なにか喉を妙に鳴らしながら、デスクのついわきにあるドアから、飛び出された。一二分僕達は腰かけたままでいたが、僕はなにか文章に誤りでもあったのかと思った。―で、僕とひとりふたりの生徒が、デスクの上にある答案をのぞきに行った。きっと、誰かがばかげたことを書いたので、先生はその生徒を呼びに行かれたのだと思った。 『デスクにある一番上の答案は、赤インキで書かれていた。赤インキなんて、誰も使ってはいないし、その手蹟もクラスの誰のでもなかった。みんな―マクロードも誰も―それを見た。そして自分が書いたものでないことを、固く誓言した。僕は答案紙を数えようと思った。そして十分確実に数えたのだが、デスクの上には十七枚あった。しかも腰掛にいる生徒は十六人なのだった。僕はその余分の答案紙を鞄へ入れた。今でもたしかそれを持っていると思う。それにどんなことが書かれていたかといえば、それはまるでつまらない、なんでもない文句なのだった。―Sという意味だ。』 『その紙を見せてもらえるかね?』と、ここまで話を傾聴していた男は言った。 『ああ、見せよう。―ところで、その紙については、また一つ妙なことがある。その日の午後、僕は、戸棚からその紙を出して見た。僕はそれが、その同じ紙だということを確かに認めたんだ。だって、その紙に念のため拇印をつけておいたんだからね。ところが紙には書いた文字がまるでなくなっているのだ。今もいった通り、僕はその紙を保.―つまり、「もしあなたが私のところへ来ないなら、私があなたの方へ行きますよ」― 71 ―

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