畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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おかん 、、、、、、、、、、、、、かな!どうしてそんなことを書いたのかい?そりゃなんのことだい?”と、僕は言った。するとマクロードはこたえた。“そりゃあ変てこさ。僕にもなんのことか、はっきりわからない。わかっていることは、そんな言葉が、ふっとあの時頭のなかに浮かんだので、書いただけのことさ。僕が思った通りを書いたのさ。ペンをつかんだ途端、頭の中に、一枚の絵のようなものがあらわれた。その絵のようなものが、「四つの木の間の井戸」だったのさ。その木は赤い実をつけた、どす黒い木だった。なんの木だろう?”“そんな木は、ななかまどの木だろう。”“ななかまどって、聞いたこともない。いや、そうだ。いちいの木だよ。”“で、サムプソン先生は、どう言われた?”“なんだか、おかしいくらい妙な顔をされた。僕の文章を読むなり椅子から立ちあがって、暖炉の方へ行かれた。僕に背を向けたまま、ずいぶん長い間なんにも言わないで、じっとしていられた。そして振り返えりもしないで、ひどく静かに、お前の文章は、どういう意味なんかと訊かれたんだ。僕は思った通りを言った。だだそのばかげた木の名だけは、思い出せなかった。するとこんどは、なんのつもりで、こんなことを書いたのか、話してごらんといわれた。で、僕はあれこれと説明しなきゃならなかった。そのあと、先生は、もう文章について質問することはやめて、僕がこの学校に来て、どれくらいになるかだの、僕の郷里はどこかだの、そういったことを訊かれた。それから僕はそとへ出たんだが、先生は、あまりいい顔はしていられなかった。” 『このほか僕達がどんなことを言ったか、僕はおぼえていない。翌朝マクロードは悪寒のようなものを感じて、ベッドについた。彼がまた学校へ出られるようになるには、一週間かそれ以上もかかった。それから一ヶ月ばかりの間、これということも起らなかった。マクロードが考えたように、サムプソン先生がほんとうに驚かれたのかどうか、先生はそれを顔色には出されなかった。だが、僕は、先生の過去の歴史に、なにかひどく妙なことがあるように信じられてならなかった。しかし、これは、われわれ生徒が、こうした事を見ぬくほど、鋭敏だったのだと言おうとしてるのではないよ。― 70 ―

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