畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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れ 、、、 ハイランドだった。いや、そのうえに―待てよ―そうだ!部屋の中に一人の男がベッドで死んでいた。その額には馬の蹄鉄の跡がついており、ベッドの下の床板にも、馬の蹄鉄の跡で一杯だった。どうしたわけかわからない。また、こんな話もある。或る変な家で、奥さんが寝室のドアに錠をおろすと、カーテンの間から、“さあ、これで私達は今晩中締めこまれたんだわ”という、細い声が聞えたそうだ。こんな話には、どれも、説明も結論もあったもんじゃない。こんな家には、まだそうしたことが続いているらしい。』 『ああ、いかにもありそうなことだ。―僕が言ったように、雑誌かなんかからの、おまけを加えた話ならな。君は、或る学校で、ほんとうの幽霊が出たって話を、聞いたわけじゃあなかろう?僕はそんなことは考えもしない。今まで僕が出くわしたどんな人だって、そんな考えをもっていた者はない。』 『君がそういう言い方をすれば、僕は君こそ幽霊話をもっていると推定するよ。』 『いや、実際知らないんだよ。だが、一つ気になっている話がある、三十何年か前、僕の学校で起った事なんだ。それに説明の加えようもないんだ。― 『その学校はロンドンの近くにあった。大きな、かなり古い建物―ぐるりにきれいな庭のある、白塗りの建物だった。庭には、テームズ谿のやや古い多くの園で見かけられるような、大きな杉が立っていた。そして僕たちが野外遊戯に使う囲地には、年古い楡にの樹が茂っていた。僕は今でも心ひそかに、そのあたりが、まったく興味のある場所だったと思っている。だが生徒の中で、学校が相当な特色をもっていると考えている者は、ほとんどなかった。 『僕がその学校にはいったのは、一八七〇年後間もなくの、或る年の九月だった。同じ日に学校へ着いた生徒の中で、一人好きになれた子があった。高地〔スコットランドの北部〕の子で、それを僕はまあ、マクロードと呼ぶことにしよう。暇をつぶして彼を描叙する必要はない。大事な点は、僕が彼と非常な知己になったことである。彼はどの道異常な子ではなかった―特に読書にすぐれているのでも、競技に巧みだというわけでもなかった。だが彼は僕と気― 67 ―

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