畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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、、、 、、、、スクエア 二人の男が喫煙室で、彼等の私立学校時代の話をしていた。Aが言った。『僕達の学校では、階段に、幽霊の足跡があったよ。どんなふうにだって?うん、ひどく不明瞭だった。角張った踵の靴の形でね。たしかそう記憶している。階段は石の階段だった。その足跡の由来については、僕はどんな話も聞いたことがない。考えれば変だろう?だって、何者かが、その足跡を捏造したのかも知れんからね。』 『ちいさな子ども達に、そんな話をしてはならないよ。子どもは、みんな自分自分の神話をもっているんだものね。ついでに君のために、一つの論題をあげようかね。―“私立学校伝説”という、ね。』 『収穫はむしろ乏しくともだね。僕は思うんだが、たとえばもし君にして、子ども達が学校でお互いに話すような幽霊話の一群を研究しようとするなら、それはみんな、結局本の話を圧搾した翻案になってしまうだろう。』 『近頃ではストランドやピアソン〔第十九世紀のイギリスの物理学者。物理学の哲学的批判によって有名〕といった人達の説が、ひろく演繹されるのだからね。』 『まったくだ。あの人達が、僕の時代に生れなかったり、僕の時代に思索しなかったりしたらな。だが、待てよ。僕は、話に聞いた要点をおぼえているかな。―まず第一に、ある部屋をもった家がある。その中に一組の人々がいて、一夜をあかそうと言い張った。そして、夜があけると、その人々はみな、部屋の隅っこに膝まずいていた。そして“わしは見た!”と言ったかと思うと死んだ―』 『それは、バークレー街区の、家じゃあなかったかい?』 『そうだったかも知れん。―で、真夜中に往来でなにか物音がするので、それを聞きつけた人が、なんだろうと戸をあけたら、誰か四つんばいに這いながら、近かづいて来た。見ると眼が飛び出して、頬の上へブラさがっているの学校奇譚― 66 ―

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