畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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る るのだ。このあたりの多くの人々から、われわれはこの地点だけにキャンプするよう警告されているのだ。すくなくともわれわれは、この警告に服従しなければならない。―みんな、承知だろうね?』 誰も彼も、すなおに『はい。』と言った。が、スタンレイだけは、こうつぶやいた。『そんな奴の言うことに服従するなんて、馬鹿な!』 翌日の正午過ぎ間もなくのこと、次のような対話が開かれた。 『ウィルコックス。お前のテントには全員揃っているだろうね?』 『いえ、先生。ジャッキンズがいません。』 『あの子は、一番始末にいけない厄介者だよ。どこへ行ったのだろう?』 『どこだが、見当がつきません。』 『誰かほかに知っている者はないか?』 『先生。嘆きの井戸へ行ったのじゃないかと思います。』 『誰だ。そう言うのは?ピップスキークか。嘆きの井戸ってなんだ?』 『先生。あの原っぱのそばにあるんです。―ええ、荒れ地の樹の茂りの中にあるんです。』 『それは、あの赤い円まの中のことか?大変だ!どうしてお前はそう思うのだ?』 『ジャッキンズは昨日その井戸のことを、むやみに知りたがっていたんです。牧夫の爺さんがいろんな話をしてくれて、あすこへ行っちゃならないって、僕たちを戒めたんです。だが、ジャッキンズは、それを信じないで、あすこへ行くって言いました。』 『馬鹿な奴だ!』と、教師のホープ・ジョーンズ氏は言った。『なにか持って行ったかい?』― 57 ―

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