畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ウツスカこごえ る ひとこと 『なんと言おうが、僕はそんな話は一言も信じないや。』と、スタンレイ・ジャッキンズは言った。『僕は今にあすこへ行ってみせる。もし行かなかったら笑われていい。』いと戒められた時でも、それをきかなかっただな?じゃああんたは、むやみな強情っ張りなんだ。わしが大嘘をついたとこで、なんになるだかね?あの原っぱへ行く者があるとすりゃあ、ちいっと足りねえ人間だね。とにかくわしは、血気にまかして、なんでも打ち消してしまう若造は好かねえよ。』うしたものを飲んでるらしいな。こんなとこはみんなに聞かせたくないや。でたらめ話さ。さあ、帰ろうよ。みんな。』 ったまま振り返りもしなかった。牧夫は肩をゆすり、つっ立ったままむしろ悲しげに彼等を見送った。の話がどんなに馬鹿げたものであるかがはっきりするんだと言い張った。うねと訊いた。そして、『この赤い印の場所へは、足を踏み入れないように、特に注意して置く。』と言った。先生。』 『いけないといったらいけないのだ。』と、ロビンソン氏は言った。『この言葉がお前の腑に落ちないにしても、私はそう言わざるを得ないのだ。』そして彼は、教師のラムバート氏へ振り返って、なにか低声で話しあったが、また向き直って、『この事を、みんなによく言って置く。われわれ義勇団員は、あの原っぱに近かづかないよう警告されてい『じゃあ、あんたはわしの言うことを聞かんというんだな。』と、牧夫は言った。『あんたは今まで先生が、いけな『僕は爺さんのほうが、足りない以上の人間だと思うよ。』と、スタンレイは遣り返えした。『爺さんはお酒か、そそして彼等は立ち去った。その二人は、『さようなら。』とか『ありがとう。』とか牧夫に言ったが、スタンレイは黙キャンプへの帰り道で、彼等の間には一大論争があった。が、スタンレイは、嘆きの井戸へ行きさえすれば、牧夫その夜、引率教師のバーズリ・ロビンソン氏は、いろんな訓示の間に、どの地図にも赤い円まの印がついているだろ五六人ガヤが言いかけたが、そのうちでも、スタンレイは、ムッとむくれた声で言った。『なぜ、いけないんですか?― 56 ―

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