畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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る るか スカウツ 『あすこは、なんてとこだろう?』 『どこさ?』友達の一人が言った。 『ずうっと下の、野っ原のまんなかにある、木の茂りみたいなもの……』 『ああ。あれか。あれがなんだか、僕知るもんかい。』 『なあにね、僕はあの眺めが好きなんだよ。なんてとこかな?誰も地図を持ってないんだな?』と、スタンレイは言った。『義勇団員を呼んでごらん!』 『地図ならここにいいのがある。』と、ウィルフレッド・ピップスキークが、才走った調子で言った。『あの茂りはちゃんと、この地図にのってらあ。だが、茂りの中に赤い円まがついてるよ。行っちゃいけないんだろう。』 『ふむ。なんて名なんか、そんなに気になるのだったら、この爺さんに訊くがいいや。』 “この爺さん”とは、ちょうどそこへ登って来て、彼等のうしろに佇んでいる、老牧夫のことだった。 『お早うがす。坊っちゃんがた。』と、彼は言った。『そうやって日向ぼっこなさるにゃあ、もって来いのええお天気でがすなあ。』 『ええ、ありがとう。』と、アルジャーノン・ド・モントモレンシイは、生来のしとやかさで言った。『お爺さん。あのずっと向うの茂り―あれはなんという名なんでしょうか?そしてあの中になにがあるのでしょうか?』 『むろん、お話できるだがね。』と牧夫は言った。『ありゃあ“嘆きの井戸”ちうんでがすよ。ええ。―だが、あんたがた、うそにでもあのあたりで、苦しげな叫び声を出しちゃなんねえよ。』 『あそこには、井戸があるのですか。』と、アルジャーノンは言った。『誰がそれをつかうのです?』『なんを知りたいって思うの?』もう一人が訊いた。『赤あ円まなんかに驚くもんか。』と、スタンレイは言った。『だが、このへっぽこ地図にゃ、名が書いてないぜ。』― 52 ―

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