畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ンダウ カス スカウ チャンスった。 こういうわけで、下級生受持のジョーンズ先生は、断乎たる処理をとり、競技の中止を宣告する必要をみとめた。バーズリ・ロビンソンという教師は、五種目の競技中、落伍したのは、ただ四名の下級生だけだと進言したのだが駄目だった。ジョーンズ先生は、ジャッキンズこそ、なんといっても義勇団トの仕事を妨害したのだと言い、ジャッキンズを除く他の三名は、彼の隊では、これまで優秀なメンバーだったのだと言った。そして先生と校医のレイは、この失敗によってから生じた不都合は、競技から得る利益を帳消しにして余りあるものだと感じた。その上、これ等落伍した生徒の戒告は、その両親達にとって、焦慮ともなり悲歎とさえなった。両親達は、もうジョーンズ先生が発するならわしの、よそゆき文句では満足しなかった。そして実際、彼等の一両人が、イートン校〔英国第一の公立学校。この作者もここの校長だった。〕を訪ね、貴重な時間の多くを、苦情で責め立てた。―こうして、この救命競技は、今は過去のものとなったのである。 約言して、スタンレイ・ジャッキンズは、義勇団ウ員ト達には、すっかり信用を失ってしまったのだった。そして彼は団から、退団の通告を受けたという噂が、一両度筆者の耳にはいっている。この成行については、ラムバートという教師がいろいろ彼のために弁護した。そしてついに、もっと穏便な考慮を払われることになった。―ところが、それは、彼に、また一つの“機会”を与えることになったのである。 そこでわれわれは、スタンレイ・ジャッキンズの姿を、一九××年の夏休暇のはじめ、D州の、美しいW地方で行われた、義勇団キャンプの中で、見かけることになる。 にこやかな朝だった。スタンレイは一二の友達―彼はまだ友達はもっていたのだ―と、芝山のてっぺんで、日向ぼっこしていた。両手をつっかい棒に、頤をのせ、腹んばいになって、彼は遠い彼方をじっと見つめていたが、― 51 ―

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