畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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うこむ ・・・ オピダン るぶし一致、彼に投票したためであった。 満場一致?いや、筆者はまちがえた。一票だけ反対者があった。それは小ジャッキンズ(弟)だった。彼はこの反対には、すぐれた理由があるのだと言った。彼は大ジャッキンズ(兄)―スタンレイ―と偶然同級だったのである。 読者はまた、ウィルコックスが、この数年首席をつづけ、今では学校と給費学生団スの級長団長を兼任していたといっても驚いてはいけない。で、学課の勉強もあるし、こうした地位の義務も遂行するという過労のため、彼はひどく健康をそこねてしまった。半年間十分に静養し、外国へ航海などしなくてはいけないと、かかりつけの医師から厳重に言いわたされたのだった。 ウィルコックスが、今こうした、輝やかしい向上を遂げてゆく足跡をたどることは、書くも愉快な仕事ではあるが、まあ、彼のことはこれくらいにして、時間がないから、こんどはがらりとちがった事実へ眼を振り向けよう。それはスタンレイ・ジャッキンズ―大ジャッキンズの閲歴である。 スタンレイ・ジャッキンズも、ウィルコックスのように、学校当局の注意をひいていた。だが、それはまったく別のかたちで―だった。意地っぱるなら、お前は、いつもこの学校へはいったことを、悔やむようになるだろうよ。ね、よくよく考えて、そんなことにならないのが幸福だと思わなくちゃいかん。』 ジャッキンズには、またこんなこともあった。―たまたま学長が運動場を通りがかった時、クリッケットのボールが、ピュ―ッと飛んで彼の踝くにあたった。つい彼方から一つの声が叫んだ。『しめた!カット・オヴァ!〔クリッケットで、ボールにあたるか怪我した場合にいう〕』。学長はちょっととまって踝をさすりながら、『あの子は、ボールを自分でフェッチ〔行って持って帰る〕するがいいと思うね!』。するとそばにいた副学長は言った。『そうですとも。例の下級受持教師は、ニコリともしないで言った。『なんだ、またかね?ジャッキンズ。こうした行状のままでまだ― 49 ―

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