畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ラレト スカバッジウト パトロウル スカ 一九××年のことである。或る有名な学校に所属している義勇団ウ員トの中に、アーサー・ウィルコックスという少年と、スタンレイ・ジャッキンズという少年がいた。二人はおない年で、寄宿舎も同じ、管区も同じ、したがって当然、同じ偵察隊のメンバーだった。二人はまた、容貌も実によく似ていた。それが、彼等と接触していた教師達にとっては、懸念や面倒や、苦悩の種にさえなりそうだった。だが、まあこの二人性格性質には、なんというえらいちがいがあったことか! ウィルコックスについては、こんな話があった。彼が教員室へはいって行った時、主任教師はほお笑みながら、見あげるように言った。『いや、ウィルコックス。お前がこの学校にもっとながくいると、賞与基金がなくなりそうだぞ!さあ、この美しい“ケン僧正伝”をお取り。これでわしは、お前とお前の御両親へ、心からのお祝いに代えるのだ。』―またこんなこともあった。或る日学長が運動場を通りがかった時、ふとウィルコックスに目をつけて、ちょっと立ちどまったが、副学長を顧みて、『あの子は、すばらしい額をもっているね!』。すると副学長は答えて、『まったくです。あれは天才か、でなければ脳水腫を示しているのです。』 義勇団員としても、ウィルコックスは、いろんな記章やら栄典やらを得ていた。みな競技に勝ち善行を誇るものだった。―炊事バッジ、製図バッジ、救命バッジ、新聞屑を集めたためのバッジ、教室のドアを常に静かに締めたためのバッジ等々。このうち、救命バッジについては、筆者は、スタンレイ・ジャッキンズを述べる場合に一言しよう。加えたと聞いても、驚いてはならない。また、この下級受持教師が、みごとな赤ク紫ッの小函に入れた善行章を、ウィルコックスに授けた時、感きわまって涙を流したと聞いても、驚いてはならない。この授与は、第三学級全部が、満場読者は、ホープ・ジョーンズ氏が、その歌曲集のどれもに、ウィルコックスを推讃するための、特別の詩句を書き嘆きの井戸― 48 ―

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