畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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quieta non movere ・・うっ イニシアルスショックらんにはと期待仕り候。』 ところで、この“同封された写真”を一見するに及んで、アンストルーザー夫人は、猛烈な衝撃をうけるという事件が起った。そのため、夫人は、この冬、外国旅行をしなければならないことになった。 アンストルーザー氏は、所要の整理をするため、ウェストフィールドに帰った。その時、氏は、当然、一人の老教区長に、今までの話をうちあけた。だが老教区長は、ほとんど驚きの色をあらわさなかった。彼は言った。 『実は、わたしも、この話の筋については、自分でいろいろまとめてみたのでした。半ば土地の古老に聞き、半ば自分であなたの所有地を探索したのでした。無論、わたし達も、或る程度、苦しめられたのでした。そうです。はじめの頃は、いけなかったです。あなたのお話のように、梟のようなものや、人々のしゃべる声が時々しました。しかも或る晩には、この園にいるかと思えば、他の晩にはあちこちの小屋のあたりをうろつくのです。だが、近頃は、さっぱり見かけなくなりました。それでわたしは、あれがすっかり業ごが滅めしたと思っていたのです。過去帳のほかには、そして長年わたしが、家訓だと考えていたもののほかには、なんの記録もありません。ですが、よく調べてみて、とうとうその家訓が、後人の手で書き加えられたものだということに気がつきました。そこには、十七世紀中に物故した、教区長の頭文字があるのでした。A・C・―つまりアウグスチン・クロントンというね。ここにその家訓があります。ごらんなさい。―が―ええ、思うといっても、それを正確に言うことは、どうもまあむつかしいですな。』.(静かなるものを、動かすなかれ)―そこで、わたしは思うのです ― 44 ―

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