畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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おそわれ ロッジ ・・ 『まあ!』 『まあ、だって?お前は僕が見たことがわかるのかい?』 『やっ!その通りだ!お前も同じ悪夢を見たんだ!ほんとにそうだろう?うむ。なんともふしぎ千万だ!―そうだ。僕はたしかに大逆罪で死刑に処せられたのだと思うよ。僕は藁の上に転がされていた。そして、あさましくも揺り落された。それからなにか階段をのぼらなくちゃならなかった。誰かが僕の腕をつかんでいた。僕はちょっとばかり梯子を見たと思う。多勢のガヤガヤする音を聞いたと思う。僕は、その群集の中を通りぬけてゆき、彼等の話している騒ぎを聞くだけの我慢ができたとはとても考えられない。だが、幸い、その事実に到らないで済んだ。夢は僕の頭の中で、雷のようなとどろきとともに、消え失せてしまった。だが、メリイ―』 『あなたがきこうとしてらっしゃることは、わかりますわ。わたし、これを一種の伝心術の例だと思いますの。ウィルキンスさんが昨日わたしにお別れを言いに来られましたの。そしてここに住んでいた子どもの時分、弟さんが或る夢を見たというお話をされました。昨夜わたしが、あの恐ろしい梟の声で目をさました時、そしてあの人達が潅木林の中でガヤガヤ笑っていた時(ついでに言いますが、あの人達がなにかあすこを荒しはしなかったか、あなたに見て頂きたいの。そしてそうだったらそのことを警察に届けて頂きたいの)、なんだか、わたし、ウィルキンスさんのお話を、考えないではいられませんでした。だから、そのわたしの頭の中の考えが、眠っていらっしゃるあなたに伝わったにちがいないと思いますわ。ほんとうにふしぎです。そしてわたしが、昨夜あなたを苦しめたことを、お詫びしますわ。あなたは今日、できるだけ多く新鮮な空気にお触れなさるがいいですわ。』 『いや、今はもうすっかりいいよ。だが、僕は小屋へ行こうと思う。誰かとゴルフをやってみようと思う。で、お前はどうするね?』『それは暗い寒い日で、街には雪があったでしょう?そしてあなたのどこか近くで、火が燃えてたでしょう?』― 41 ―

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