畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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・・・ ・・いのち 『あなたは、訊問に立たされていたのでしょう?ジョージ。』 『そう!そうだったよ、メリイ。お前もまたそんな夢を見たのかね!どうもふしぎじゃないか!』わたしはあとでお話ししますから。』 『そうかね。では言うが、僕は訊問されていたんだよ。その場の様子では、生命にかかわることだったにちがいなかった。誰も僕のために弁護しくれる者はなかった。そして、どこかそのあたりに、ほんとうに恐ろしげなやつが―ベンチによりかかっていた。僕は言うが、そいつは実に不公平に僕に喰ってかかるんだ。僕が答えることは、みんな曲解しやがって、まったく言語道断な訊問を行おうとしやがるんだ。』 『どんなことを?』 『僕がどこそこの場所にいたという日附を訊いたり、僕が書いたと思われる手紙のことを問うたり、またなぜ僕が或る書類を破ったかとたずねたりするのだ。思い出すが、そいつは僕が、どうにか答えると、へんに笑やがるんだ。それで僕はまったく萎縮してしまった。笑い声は高くはなかった。だが、メリイ、それはその時には、実に凄ごかったよ。僕は確信するが、ああした奴は、嘗てあすこにいたにちがいない。そして、もっとも恐るべき悪党だったにちがいない。そいつが言ったことは―』 『ありがとう。それは仰有らないでもいいわ。わたし、いつか自分でゴルフ・リンクへ行ってみますわ。で、夢は、どんなふうにおしまいになりましたの?』 『うむ。僕に背を向けてね。そいつは、その方を見たんだ。そのあとで起った緊張した有様はぜひ聞いてもらいたい。僕には数日間も続くように思われるんだ。僕は待ちに待った。そして時々、僕にとって非常に重大だと思われることを書いた。そして返事を待ったが、誰も来なかった。それから僕はそとへ出た―』『いいえ。わたしは、よく眠っていなかったので、そんな場面は見ませんでしたわ。ずっと話してごらんなさい。― 40 ―

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