畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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まおっと さむけ ますの。で、わたしは、幾度か村の老人達に、なにか珍らしい話を知っているかどうか、たずねてみました。けれど、その人達は、なにも知っていないか、言おうとしないかにきまっていました。―おやおや、子どもと時代の思い出で、御退屈さま!でもあの涼亭は、一時、わたし達のむやみに気になってならないものでしたわ。こうした、わたし達が勝手にあとさきを揃えたお話が、お気に召しましたか知ら。―では、アンストルーザーの奥さま。もうお暇いたさなくてはなりません。この冬、この町でお目にかかりたいものですわね。』 こうして、ウィルキンス嬢は、去った。腰掛と杭も、その夕方までには、すっかり取り除かれ引き抜かれてしまった。夏過ぎんとする天候は、誰も知っているように、からだ工合にはよくなかった。そのせいか、夕食の時、コリンズのおかみさんがやって来て、ブランデーをすこし頂きたいといった。コリンズがひどい悪寒に襲われているので、明日はうんと働くことができまいというのだった。 翌朝アンストルーザー夫人の目ざめは、まるで穏かではなかった。彼女は、昨夜、なにか悪い奴が、あの植附け地へはいり込んだにちがいないと良人に話した。 『そしてもう一つ用事があるの。コリンズが仕事にかかったら、梟をどうにかしてほしいと言って頂きたいの。昨夜も一匹やって来て、ちょうどこの窓のそとに棲とりましたわ。もし部屋へでもはいって来たら、わたし、面くらって大騒ぎしたでしょう。あの鳴き声から考えても、よほど大きいのにちがいありませんわ。あなたは聞かなかったの?ええ、そうでしょう。いつもの通り、ぐっすり眠っていらしったものね。でも、ジョージ、昨夜はあなたもなんだか寝苦しそうに見えたわ。』 『そうだよ。僕はお前の夢とは別もので、ぼんやりさされたように感じるよ。お前は僕が見た夢を想像もしまい。その夢は、目がさめたらどんな夢だったか話すことができなくなった。もしこの部屋が、こんなに日がさしこんであかるくなかったら、僕は今だって、その夢を思い出す気にならないくらいだよ。』― 38 ―

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