畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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おっと つげ がまずみません。旦那がおっしゃるのは、まあ、もっと言わして頂けるなら、つまりこの杭のぐるりの土を、ゆるめることなんでさあ。それはわたしと倅で、すこしの間ま働けばいいんですよ。だが、ここにあるこの腰掛ですね。』と、コリンズは、自分の工夫力を、薔薇園の計画のこの部分に適用するように見せかけながら言った。『これはまあ、おまかせくださるなら、柵をくぐって、みんな取っ払います。今から一時間とたたないうちにね。ただ―』 『ただ―なんだい?コリンズ。』 『ええ、それはね、それは、旦那にとっても、御自身や―そのほかのどなた(この「どなたも」はいささか口早やに加えられたが)もお逆らいなさらないと同じに、わたしにとっても、言いつけられたことに、お逆らいするわけじゃございませんが、どうもここは、わたしなら薔薇をつくるために選ぶ場所じゃございませんな。だって、その黄楊や莢蒾をごらんなさい。どんなにこいつ等が、いっぱし日光を遮ぎるでしょう―』 『ああ、そりゃあそうさ。だから、こいつ等をすこし取り除のけてしまうんだ。』 『そりゃあ、たしかに、取っ払いさえすりゃあね!ええ、たぶん、そうすりゃあですが―ねえ、旦那―』 『しかたがないさ、コリンズ。わしは今、乗って行かなくちゃならない。入口へ奥さんの馬車が来たようだ。奥さんが、してもらいたいことをこまかに説明するだろう。わしは、奥さんに言っておこう。お前が、腰掛はすぐ取り除のけたが、杭は午後でないと駄目だってことをね。じゃあ、それでは。』 コリンズは、頤をさすりながら残った。そこへ来たアンストルーザー夫人は、主人の言葉をきいて不満らしかった。だが、プランを多少変えることについては、かれこれ言わなかった。 その日の午後四時まで、夫人は良人をゴルフへ遣った。コリンズをうまくあしらい、その日のほかの勤めも、きちんとやってのけた。そしてきめた場所へ、キャンプ椅子と日よけ傘をもたしてやって、潅木林から見られる教会の見取図にとりかかった。そこへ女中が、急ぎ足に道をおりて来て、ウィルキンス嬢が、訪ねて来られたと知らせた。― 33 ―

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