畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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きゃ わ つげナースリィれ立った。筆者は、こんな樹苗床に、もっとも適しているという条件については、多くを知らない。だが、つねに“偉大なる花作り”だと自認しているにしても、アンストルーザー夫人が、目的に対する好適の地を選ぶ上に、かなり誤ちのあったことは、信じていいような気がするのである。境をなしていた。土地はほとんどまる裸で草もなく、あたりの様子は小暗く陰気だった。素朴な腰掛や、朽ちて皺しばんだ樫の杭が、空地のまんなかあたりに残っているので、ここには嘗て涼亭が建っていたのだと、アンストルーザー氏は推測したわけだった。 コリンズは、この土地についての夫人の計画を、べつに、なんとも思ってはいなかった。で、アンストルーザー氏から、その話を聞かされた時にも、平気な顔をしていた。 『ええ、すぐ、すっかり腰掛なんか取り払っちまいましょう。』と、彼は言った。『こんなものは、ここの飾りでもありませんし、また、ひどく腐っちまってますからね。ごらんなさい。』と、大きな木片をぶちこわしながら、『すっかり腐りがまわってまさあ。ええ、手もなく取っ払えますよ。』 『そして杭も抜かなくてはな。』と、アンストルーザー氏は言った。 コリンズは仕事をつづけた。両手で杭をゆすぶった。途端に頤をすり剥いた。 『こいつ、地びたに、しっかと喰いこんでいます。』と、彼は言った。『こいつは、なが年、ここにあったんですよ、旦那。でも、腰掛のように、おいそれと取っ払えないようです。』 『だが、奥さんは、どうでも一時間のうちに除のけてほしいと言っているのだよ。』と、アンストルーザー氏は言った。 コリンズは、軽く笑って、ゆっくり頭を振った。『駄目ですよ。旦那だっておわかりでしょう。誰だって、できねえものはできねえんです。ね、そうでしょう?まあお茶ち時ど〔午後五時〕までに抜きましょう。うんと掘らなくちゃなりそこはちいさな湿気のある空地で、一方は道で区切られ、もう一方は茂った黄楊林や月桂樹や、そのほか常緑樹が― 32 ―

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