畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
31/172

かみて つげ い あずまやランチョン 『あら、ちがいますわ。わたし、よくお教えしてたと思っていましたに。―いいえ、教会のほうへいく潅木林の道から、ちょっとはなれたあのちいさな空地ですわ。』 『おお、そうだ。あの、以前にはきっと涼亭があったにちがいないと、二人で言っていた、あすこだね。朽ちた腰掛と杭くのあるとこだね。だが、あすこは、日あたりがいいかな?』 『あなた。失礼ね。わたしだってすこしは常識をもっていますわ。涼亭なんか思い出したくらいのあなたの考えで、わたしを信用して頂きたくはないわ。ええ、むろん日光はたっぷりあたりますとも。あの黄楊の茂りを取りのければね。あなたが仰有ろうとすることは、わかっていますわ。だからわたし、あなたに、あすこを裸に切りはらってくださいなんて、お願いしませんわ。わたしただコリンズに、一時間たってわたしが行く前に、腰掛や杭やそのほかのものを、すっかり取り払ってもらいたいのですわ。そしてあなたには、すぐ出かけて頂きたいの。間食〔朝食と昼食のあいだの間食。〕のあとで、わたし、教会のスケッチをしようと思いますの。だから、まあそのあいだ、あなたはゴルフ・リンクにおいでなすってよろしいでしょう。』 『や、そいつはうまい考えだ―まったく!じゃあ、お前は絵をかくがいい。そのあいだ、一ラウンドやって来よう。』 『あなた、主教さんにお話しなさるかとも、思うんだけど―だけど、あの方の御意見をきいたところで、わたしの絵には、なんのたしにもなりませんわ。さあ、早くお支度なさいよ。でないと、午前中の半分は過ぎてしまいますよ。』 アンストルーザー氏の顔は、ほぐれるように見えたが、またグッと固くなった。いそいで部屋を出たが、すぐ廊下でなにか命じている声が聞えた。アンストルーザー夫人は、かれこれ五十歳にはなろうという、堂々たる主婦ぶりで、朝の書翰に二度目を通したあと、家事を処理しはじめた。 二三分のうちに、アンストルーザー氏は、温室でコリンズを見つけた。二人は、薔薇園が計画されている場所へ連『いや、はっきりは知らないよ。村のほうの、上手のはしだったかな?』― 31 ―

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る