畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ディナーやくサッパー、フライリーフしたことを確言したわけです。あんな、加答児や瘧ぎの巣になっているような樹は、見たことがありませんからね。』 居間には、この一家の書物が飾ってあったが、リチャード卿がイタリアでの蒐集品が到着中なのと、それを入れる適当な室を増築中なので、書物の数は多くはなかった。 リチャード卿は、手記から書架を見あげた。言った。 部屋を横切って、卿は、一冊のどっしりした聖書を取り出した。たしかにその聖書だった。飛頁〔本の前後にある白紙。〕には、こうした銘記がされてあった。―“マシュウ・フェルへ。その愛する教母アン・アルダスより。一六五九年九月二日。” 『この予言者を再検討することは、わるい考えじゃないですな、クロームさん。わたしは旧約の歴代志略のなかで、あなたと御祖父とわたしの二つの名でもってやってみましょう。ふむ!ここになんと書いてあるかな?“なんじ朝あにわれを求めんも、われあらざるべし“か。なるほど!あなたの御祖父はいい予言をされたじゃないですか。え?これでもう、わたしには予言者無用です。見解が同じです。いや、クロームさん。わたしはあなたの持って来られた包みに、衷心お礼を申します。あなたはよほどお急ぎでしょうな。まあ、どうぞもう一杯お重ねください。』 こんなぐあいに、しん底から款待の意を表して(それはリチャード卿が、この青年の話し振りや態度に好感をもっていたので)、二人は別れた。 午後になって、客が来た。キルモアの主教、メリイ・ハーヴィ夫人、ウィリアム・ケントフィールド卿等であった。五時に正餐、それから酒、トランプ、晩食、そしておのおの寝室に退散した。 翌朝、リチャード卿は、気分がすすまないというので、みなと狩猟には出かけなかった。卿は、キルモアの主教と閑談した。この主教は、当時のアイルランドの主教達とはちがって、その教区を巡回し、そして実際そこにかなりな『その老予言者〔卜占に使った聖書を指す〕は、まだあの中においでだろうか?一つお目にかかりたいものだ。』 タルカ ― 21 ―

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