畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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かたゲーム・プリザーヴァ しもべ も アシュラーシビルや表装石を煉瓦にかぶせた。おもしろくもない羅馬式の大理石を、玄関や花壇に据えた。ティヴォリの巫女寺の模造を、沼の向う側の堤に建てた。そしてキャスリンガムは、まったく新らしいとはいうものの、ひどく情趣に乏しい光景を呈した。だが、後年に至って、このあたりの多くの田紳諸君に、これが一つの模型として役立ったことは、大いに賞讃していいわけでもあった。 ある朝(それは一七五四年のことだったが)リチャード卿は、不快な一夜をすごして起きあがった。強く風が吹いて、煙突の煙がしつこく寝室に立ちこめた。でも、ひどく寒いので、火を絶やすことはできなかった。また窓のあたりがガタガタ鳴って、誰だってちっとも落ついた気分になれないのだった。しかもその日のうちに、なにか遊猟をしようという身分のある客が数人、この館やへやって来そうに思われた。そして卿がおそわれた焦燥(これは狩猟の間中つづいたが)は、時間のたつにつれ、いよいよはげしくなって、卿は、猟獣保護者〔猟獣を飼育して狩猟規則を厳重に適用する地主。〕としての自分の名声を傷つけはしないかと、心配したくらいだった。しかし、卿を実際になやましていた近因は、ひと晩中眠らなかったという、他の事実によるものだった。卿は、たしかに、二度ともうその部屋で眠むる気にはなれなかった。 以上が朝食の時、卿がむっつり考え込んでいる主おな事情だった。そこで卿は、食事をすましたあと、どうすれば一番自分の意見に合うかと、部屋を順序よく調べはじめた。ずいぶん長くかかって、一つの事を発見した。それは、東の眺めと北の眺めをもっている窓だった。しかもこの部屋のドアは、下僕達が始終通りすぎるところで、卿はそんなところにベッドを置くのはよくないと思った。いや、ぜひ西向きの窓のある部屋にかぎる。そうすれば太陽の光がさしこんで、早くから目ざませるようなことはない。しかもその部屋は、家事の通路にあたらぬところに限る。―こう卿がいうと、家政婦は思案に困ったようだった。― 18 ―

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