畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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『最も近い道は、あの丘をのぼって、教会の墓地を通りぬけることです。』と―私たちが旅館の前にちょっと佇んで、前方を見あげ見おろした時、パクストンは言いました。あたりには人っ子一人いませんでした―まったく人っ子一人。季節はずれのシーバロウは、実に閑静な場所なのでした。 『あの田舎家のそばの、堀づたいに行くのはいけませんよ。犬がいますから。』と―私が、まっすぐ進んで二つの野っ原を横切る方が近道ではあるまいかと指ざした時、またパクストンはこう言いました。 これはもっともなことでした。で、私たちは教会のほうへ道をとり、踵を返えして墓地の門をくぐりました。白状しますが、私はこの時、誰かわれわれの仕事を嗅ぎつけたような人間が、数人そこの地びたに腹んばいになっているような気がしたのでした。もしこれがまちがっていないとしたら、彼等の脇に立って、あたかも私たちの行動をジッと監視しているような人物に、彼等は気づいていた筈です。だが、彼等にはなんの素振りも認められませんでした。とはいうものの、よく観察して、ほかの場合は知らず、その時はそうだったと感じたのです。特に、墓地を通って、高い垣根にせばめられている谷底めいた道へ、神を念じながら抜け出た時、そうだったと感じたのです。 こうして三人は、ひろやかな野っ原へ出たのでしたが、私は、よし一番さきに出たとしても、垣根沿いに、もし誰かがうしろにいるなら目で見ることができたでしょう。垣根の木戸を一つ二つ越えると、左方に曲る横道があって、その道はあの塚の端にある高みへのぼるようになっているのでした。 その高みへ近かづいた時、ロングと私は、妙なものを感じました。それは朦朧としたいくつかの人の姿―幽霊と呼ぶよりほかはないもの―で、私たちを待ち受けているらしくもあり、且つその一つはずっとハッキリした姿で、私たちについて来るらしいのでした。 このあいだ絶えず動揺していたパクストンの様子は、充分描写することができないくらいです。彼は狩り立てられた獣の如く息を喘がしていました。彼の顔を見ることはできませんでしたが、いよいよ目的の場所に着いて、彼がど― 162 ―

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