畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
160/172

ポーター 、、、、、、、、、、ジヤンクシヨン 発見のよろこびは、そこなわれ―たちまち消え失せてしまいました。もし私がこんな大馬鹿でなかったら、私は王冠をもとに戻して、棄てて帰った筈でした。だが、私はそうしなかったのでした。 それからさきも、実に恐ろしかったですが、私は頃合いにホテルへ帰るには、まだたっぷり時間があったので、まず私はトンネルをふさぎ、掘った跡をかくしにかかりました。その間もずっと、彼は私の仕事に邪魔だてをしました。―或はあなた方に、彼の姿が見えるかも知れない。見えないかも知れない。それは彼の思うままなのです。彼はそこにいます。だが、彼はあなた方の目を蔽う或る力をもっているのです。 まあ、それはどうでも、私は日が出るまでの長い間、塚のそばを立ち去りませんでした。それからシーバロウ行きの連絡停車場へ駆け込み、汽車で帰えるつもりでした。やがてすこしあかるくなりましたが、このさきどうすればいいか、私にはわかりませんでした。道には垣根や、はりえにしだの茂りや、公園の柵がつづいていました。これが一種の潜伏場所にもなるわけです。私は一秒だって落ついた気持ではありませんでした。やがて、私は、働らきに出かける人たちに出くわしはじめました。彼等はみな、ひどくふしぎそうに、私を振り返えりました。彼等はこんなに朝早く人を見かけたことで、驚いたらしいのでした。だが私はそうだとばかりは考えませんでした。今もそうだとは考えてはいません。というのは、彼等の視線は、正しく私にそそがれているのではなかったからです。ええ、汽車に乗る時の、赤帽だってそうでした。しかも、駅夫は、私が客車にはいったあと、ドアを開けたのです。―誰もいないのに、まるで、誰かほかの客を乗せるために開けるように、ね。―おお、それは私の妄想ではないことを、信じて頂けるでしょう。』と、パクストンは、気のない笑いを漏らしましたが、『だから、たとえ私が王冠を、もとの場所にもどしても、あの男は私を許さないでしょう。そう言えます。ほんとうに、二週間も前までは、私は幸福な人間だったのですが!』―彼は、グタリと椅子によって、シクシク泣き出したのでした。 私たちは言うべき言葉を知りませんでしたが、なんとかこの若者を救ってやらねばならないと感じました。で、そ― 160 ―

元のページ  ../index.html#160

このブックを見る