畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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こごえ 、、、 こう私たちはパクストンにささやいて―なに気ない調子でささやいて―彼の左右につき添い、私たちの居間に戻りました。 居間にはいると、私は、今見た類もない宝物のため、しばらくはぼんやりするだろうと、覚悟していました。が、パクストンが度はずれに恐ろしげな様子をしているのを見て、私は彼がなにか言い出すまで、そのままにして置きました。 『どうすべきでしょうか?』これが、パクストンのはじめの言葉でした。ロングは、彼がこう戸惑いしているのは、無理もないと考え(これは後に、うちあけてくれたのです)ましたが、 『なぜあの塚のある土地の所有者を探さないのです。その人に知らせて―』 『おお!そんなこと!』パクストンは、遮二無二声をあげましたが、『ごめんなさい。あなたがたは実に御親切です。でも、私は、あれをもとの場所に返えすと言ったじゃありませんか。そして私は夜あすこへ行こうとは思いません。といって昼間行くわけにも参りません。だって、恐らくあなたがたは、事実をおわかりなさらないのです。―よろしい。では事実を申しあげましょう。私は、この事実に関係して以来、一人で居たことはないのです。』 私は、このパクストンの言葉を聞いて、それにかなりばかばかしい解釈を、胸にうかべかけたのでした。だがロングは、私の目を捕らえ、私を制しながら、 『僕は、わかると考えますね、たぶん。しかし君がどんな立場にいるのか、もすこし明瞭に言ってくれませんか?―そうすれば君も気が軽くなりはしませんか。』 そこでこの事実の全貌が、曝露されることになりました。パクストンは、ヂロリと私たちを見て、もっと傍に来るようにと手招きし、そして低声で話しはじめました。私たちは、無論一心に耳傾けました。そしてそのあとで、お互いに意見を交換しました。この顛末は私が書き取っておいたので、パクストンのいったほとんど一言一句そのままだ― 158 ―

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