畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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えささみ “ウィリアムは夜、海上を漕ぎ出しはしなかったですか?”と訊くと、婦人は、“いいえ、あすこにある樹の生えた塚の上へ、いつも行かれましたよ。”と答えました。―すぐさま私は、その丘へ行きました。 私はこうした塚を発掘することにかけては、多少経験があります。私は下部地方で沢山塚を発掘したことがあります。だがそれは所有者の許可を得て、白昼公然と、人夫の助けでやったことです。こんどの塚で私は、鍬を入れる前に、非常に注意して計画をたてました。塚を横切って掘り立てることは不可能でした。樅もの老木が生えているので、邪魔な木の根があるだろうと知ったのです。だが、土は非常に軽く、砂っぽく、自由でした。そこには兎の穴―或は、或る種のトンネルにはひろげられるほどの穴がありました。合間にホテルへ出入りすることは、だんだん面倒になりました。で、私は、発掘の方法を思いついた時、手助けしてくれる人々に、ひと晩の間、専念にやって見ると言いました。だから私は、そこにひと晩中いたのです。私はひとりでトンネルを掘りました。私がどんなにしてトンネルに支柱をつけたか、また掘って後埋め立てたかという、くわしい話は、お退屈だからやめます。しかし、話の大事な点は、王冠を手に入れたということです。』 いうまでもなく、私たちは二人とも、驚きと好奇の叫びをあげました。私個人としては、久しい以前から、レンドルシャムの王冠の発見について、且つその結果が、屢々悲しむべき運命に陥ったという話を知っていました。誰だってアングロ・サキソン〔英人の血統。〕の王冠といったものを、今まで見た者はなかった筈です。―すくなくとも、昔にもなかったのでした。だが、この若者は、すっかり後悔している目で、私たちをジッと見つめました。そして言いました。 『ええ、手に入れたのです。そして、どうにも困っているのは、私が、どうしたらその王冠をもとのところに返えせるか、見当のつかないことです。』 『返えすって?』私は叫びました。『君は、このイギリスで、嘗て聞かれたこともない、最大の驚嘆すべき発見をし― 155 ―

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