畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ぼぼ と 話に興味をもっておいでかな?え?”“ええ、しっかり、たっぷりおもちでさ。”と、爺さんは言いました。“このお方は、あなた様のおっしゃることなら、お信じになりますよ。だって、あなたは御自身ウィリアム・アージャーを知っておいでますからな。あの父親も子もな。” そこで私は、ひと言こ、ぜひその話をお伺いしたいと口を挿みました。そして間もなく、私は牧師さんといっしょに村の通りをあるいていました。牧師は行き会う教区民へ軽く声をかけ、そして住居へ着きました。彼は私を書斎につれて行きました。道すがら牧師さんは、私が実際に、民俗伝説の例に知的な興味を持っており、まったく普通の漫遊者ではないことを、認めてくれました。で、牧師さんはよろこんで話してくれました。そこで聞かされた特殊の伝説は、以前印刷に附そうとして成功しなかった事を、むしろ私の方で驚いたほどのものでした。 牧師さんの話はこうです。―“この地方には、あの三つの神聖な王冠に対する信仰が、ずっとあったのです。昔の人達はこの王冠が、デーン人〔古代北方から英国に侵入した種族。〕や、フランス人や、ゲルマン人等の侵入を防ぐために、この海岸の近くの、別々の場所に埋められたのだと言っていたのです。そして言い伝えによると、この三つのうちの一つは、ずっと以前に掘り出されてしまい、もう一つは海水の浸蝕のために行方知れずになり、残る一つが侵入者等を防ぐ霊験を、なお現わしつづけていると言うのです。で、もしあなたがこの地方の普通の案内書か歴史をお読みだったら、あなたは一六八七年に、一つの王冠が、熔とき毀こたれたということを、御記憶でしょう。その王冠は東アングル人〔低ドイツ民族で他国に移住したもの。〕の王、レッドワルドの王冠で、レンドルシャムというところで発掘されたといわれているのですが、ああ、なんたることか!それは正規に記録され写生されもしないうちに、熔とき毀こたのでした。レンドルシャムはこの海岸にはありません。だがそんなに遠いところでもありません。そして私は、人々が発掘されたと言ってるのは、この王冠だと信じているのです。ところで、場所なんか聞きたくもないでしょうが、― 151 ―

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