畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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みち冠をもっているのでした。私は紋章学については、かくべつ知ってはいませんが、そうですね、あれは東アングリア王国〔古代英国の一国。〕の、古い武器だと思われますねということは答えられました。 “お言葉の通りでがさ。”と、爺さんは言いました。“で、あの上にある三つの王冠の意味を御存じですかい?”私は、それが有名だということは、充分承知しているが、それについて聞いたことは、今思い出せないと答えました。爺さんは言いました。“ではね。あなたは研究家ではありゃしょうが、御存じないと思うことをお話ししましょうかね。あの三つの尊い王冠は、ゲルマン人の来襲を防ぐ力があるために、この海岸の近くの地中に、埋められたもんでがさ。―ああ、こう言っても、あなたはお信じなさるまいがね。だが、まったくのこと、もしあれが、奴等の一人に対しても保護されていたなら、あの王冠は、今でもあすこにあった筈でがさ。ゲルマン人奴等は、ここへ何度となくやって来やした。思うままにね。船でやって来て、男となく女となく子供となく、ベッドの中で殺しっちまいやがったんです。まあ、私の話は、ほんとですよ。ほんとですとも。お信じくださらないなら、牧師さんにでもきいてごらんなさい。あすこにおいでなすった牧師さんにね。” 見まわすと、径こをあるいて来る牧師さんがありました。気むずかしげに見える老人でした。私が信頼の挨拶をしかけるかしかけないかに、牧師さんはひどくプンプンして、言葉の腰を折りました。牧師さんは言いました。“いったいなにをしているんだね?ジョン〔爺さんの名〕。―いや、今日は。あなたはこの小さな教会堂をごらんだったのですか?”そこで私はちょっと話をしかけると、牧師さんはおだやかになりましたが、彼はまた爺さんに、なにをしているのだと訊きました。 “ええ、なんでもないことでがさ。わたしはただこのお方に、あの尊い王冠のことを、あなた様におたずねなさるがいいと、申しているところなんでな。” “ああ、そうかい。”と牧師さんは私に向いて、“実際妙なことです。そうじゃありませんか?だが、あなたは古い― 150 ―

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