畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
149/172

ポーチうちらうちらポーチニッチ ショックウェーターことをやめ、振り向いて、彼を話に誘いこみました。は私をひどく変な奴だとお思いでしょうな(こんなふうに彼は口を切りました)。ですがほんとのところは、私は或る打撃をうけたのです。』 そこで私は或る元気をつけるお酒を勧め、いっしょに飲みました。なにか用があったか、話を断ち切るように給仕がはいって来ました。(ドアが開いた時、この若い男は、飛びあがりでもするように、びくっとしたようでした)。が、給仕が去ってしばらくすると、彼はまた、不安な様子に戻りました。このあたりでは彼は誰も知っていないのでした。そして偶然私たちと知るようになったのでした(事実は、町にすこしの知人があったのですが)。彼は、もし気にさわらないなら、ほんとうに助言をしていただきたいと言いました。無論私たちは、『是非。』とか『どうしまして。』とか言いました。ロングはトランプを押しやりました。そして、二人は、からだを落ちつけて、どんな事に彼が苦しんでいるのか、聞き耳を立てました。 『それは、一週間以上も前に起ったことです。』と、彼は口を切りました。『ええ、私がフロストンへ―ほんの五六マイルも先ですが―教会堂を見物するため、自転車を走らせた時です。その建築は大変興味のあるものでした。その廊下の一つは、壁龕や楯で飾られた美しいものでした。私はそれを写真にとりました。そこへ墓地を掃除していた爺さんがやって来て、会堂の中を見物したいのかと訊きました。ええと答えると、爺さんは鍵をとり出して私を内部に入れてくれました。内部は大したものではなかったです。が、私は、小ぢんまりした結構な会堂で、しかもあなたの掃除が行き届いていると言いました。“だが、ここで一番すばらしいのは廊下ですね。”と、こう言いながら、そとへ出て、ちょうどその廊下のところへ来ますと、爺さんは私に向って言いました。“ああ、そうでがさ。この廊下は結構なものでがさ。ところで旦那、あすこにある武器の紋章が、どうした意味か御存じかな?”―その紋章は、三つの王どんな話をしたか忘れましたが、なにかしゃべったあと、彼はかなりこっちを信頼するようになりました。『あなた― 149 ―

元のページ  ../index.html#149

このブックを見る