畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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やけかすきが聞えた。つづいて、テプトン塔の時計の音が、カーフュー塔の時計の音を、その近かさのために打ち消すようにひびいた。 『ありゃあなんです?』と、梟は、急に、しゃがれ声で言った。 『真夜中?』梟は、たしかに驚いたようだった。『でも、わたしはひどく濡れてるので、一ヤードだって飛べやしません。ねえ、わたしをつかんで、樹にのっけてください。いいや、あなたの脚をのぼって行きましょう。そうすれば、あなたは、それを二度しようとは言わないでしょう。さあ、早く!』 私は彼のいう通りにしてやった。 『どの樹なんだね?』 『どの樹って、わたしの樹でさあ!あすこにある!』 梟は、石牆のほうへ首を振った。 『ようし。あの焼渣の樹だね?』と、私はその方へ駈け出しながら言った。 『そんなばかげた名を、わたしが知るもんですか。とにかく、出入口みたいなもののついている樹ですよ。早く!あいつ等が、またやって来そうですからね。』 『あいつ等って誰だい?どういうわけだい?』私は、ずぶ濡れの梟を、ひっつかんで走りながら訊いた。丈高かな草の中を、梟をもって走り越えることは、つまずきそうで心配だった。 『あなたは、じき見るでしょうよ。』と、この自分勝手な鳥は言った。『あなたはわたしを、ちゃんと樹にのっけてくださりゃあいいんです。それでオーライです。』 そして私は、なるほどオーライだと思った。というのは、梟が、翼をひろげて突嗟に幹を爬かきのぼり、あり難うと『真夜中だと思うよ。』私はこう言って、私の懐中時計を使った。― 142 ―

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