畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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んわ こわね おしまいに力強くうなずくやいなや、ちいさな細いものが上の枝から落ちて来た。なにか草の綱のようなひらひらしたものが、不幸な彼のからだのぐるりに投げかけられた。そして梟は、声高く反抗しながらも、フェロー池の方へ、空中を拉致されてしまった。ザンブリという水の音、ゴロゴロと鳴らす喉の音、冷酷な笑いの叫びを、私は、急いで追っかけながらも耳にした。 なにかが、私の頭上を飛び去った。そして、私が、すっかり波立っている池を、堤からさしのぞいた時、プンプン怒った、もじゃもじゃ頭の梟が、苦しげに堤へ這いあがって来た。それから私の足もとで、ブルッと身ぶるいし、翼をバタつかせ、しばらくシューシュー息を吹いた。やめろといっても、返事もしなかった。 それから、私をねめつけるように、やがて口を切った。―その不吉らしい押しつけた声音は、私を一二歩思わずあとすさりさせたほどだった。 『ど、どこへ行きやがった?へん、お気の毒さまだ。あいつ等、おれを鴨だとまちがえやがったんだろう。おう、誰があいつ等に、のめのめたぶらかされてなるもんか。何マイル四方、どんなものだって、めちゃめちゃに、引っ裂いてやれないってことが、あるもんか。』こう、夢中に怒り出して、梟は、まず手はじめに、大きなひと銜くえの草を、ひき抜きはじめた。だが、あっ!草はその喉にささった。そして息をつまらしたので、私は、血管を破ったのではないかとほんとうに心配した。だが、どうにか痙攣はおさまり、梟は、目をパチパチさせながら、息もつかなかったが、どうにか怪我もなく、起きあがった。 梟は、なにか同情の言葉でもかけてもらいたい様子だった。だが、私はめったには、そんなことを言おうとしなかった。それは、梟の今の心持では、もっともいい言葉をかけてやったところで、新たな侮辱として解釈されそうだったからだった。そこでわれわれは、ひどく気まずげに、ちょっとだまったまま、顔を見かわして立っていた。そこへ一つの気分転換が起った。はじめに亭ちの時計が、かすかに鳴った。つづいて城の中庭から、ふかぶかとした時計の響― 141 ―

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