畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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ね ほんもときらかに、なにものかが、うしろから梟を、引っ張っているようだった。緊張はパッとゆるめられた。梟は前のめりにほとんどひっくり返えらんばかりに、すっかり翼を立てながら羽ばたきまわり、私には見えない或るものへ、反抗的な一撃を行った。 『ほう、お気の毒だった。』と、ちいさな、澄んだ声が、心配そうに言った。『わしは、たしかに、そっとやったんだよ。怪我はさせなかったと思うがね。』 『怪我をさせないって?』と、梟は、にがにがしげに言った。『もちろんさせたよ。知ってるくせに。この裏切り小僧。翼はは貴様のよりゆるみはしなかったが―おう、おれが、貴様をやっつけることができたらなあ!おれは、もう、貴様がおれを、びっくり狼狽させようとすることを疑わないぞ。なぜ貴様は、おれを、一度二分間とじっとさせておくことができないのかい。這いのぼって来ないで―よし、なんにしても、貴様は、今度もやったんだ。おれは、さっそく本元へ行ってやる。そして―(と、言いかけたが、空中にはなにもいないことに気がついて)―おや、どこへいきやがったんだ?おう、こいつしかたがないや!』 『おい!』と、私は言った。『こんな目に会うのは、これがはじめてじゃないようだね。はっきり言って、どうしたわけなんだね?』 『ええ、そのわけはね。』と、梟は、こう答えながら、なお油断なくあたりを見まわして、『だが、それをお話しするには、次の週の一番おわりまで待ってください。気まぐれものがやって来て、誰の尻っぽの羽でも抜き出そうとするんですよ!わたしにもなにかひどい怪我をさせやがった。なんのためにするんか、わたしだって知りたいやね。あなたはどう思います。どこにその理由があるんです?』 私は、心にうかんだことを、口の中でつぶやいた。―『物さわがしい梟は、われわれの好奇心をそそるように、夜ごと鳴き怪しむのだ。』― 139 ―

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