畑耕一翻訳 M・R・ジェイムズ怪談集
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・・ とつて かわれわれは行って見なくちゃなりません。』 即刻集めることのできた防禦の武器といえば、一本のステッキと一本の蝙蝠傘だけだった。三人の冒険隊は、ゾクゾクしながらも、廊下へ出た。そとは恐ろしくシーンとしていた。一つの灯あ火りが次のドアの下から漏れていた。アンダーソンとイェンゼンは、ドアに近か寄った。イェンゼンがその把手をひねった。そしてグッと強く押した。駄目。ドアはびくともしなかった。 『クリステンゼンさん。ここで一番力のある下男をつれて来てくださらんか。われわれは、はいって調べなけりゃならん。』と、イェンゼンが言った。 この現場からのがれられるのをよろこんで、主人はうなずくなり、急ぎ去った。イェンゼンとアンダーソンが、ドアを見ながら、そとに残った。 『ごらん。この部屋は、第十三号室ですぜ。』アンダーソンが言った。 『うむ、そうです。あちらがあなたの部屋のドアで、あちらが私の部屋のドアだ。』イェンゼンが言った。 『私の部屋は、昼間は三つ窓を持っていますよ。』と、アンダーソンは、神経的な笑いを、どうにか押し鎮めて言った。 『冗談じゃない。私の部屋だってその通りでさあ!』と、弁護士は、振りかえりながら言った。 彼の背は、今、ドアに触れた。―と!その瞬間、ギイッとドアが開き、一本の腕が、うちらから伸びて、彼の肩を爪でひっ掻いた。腕はぼろの黄ばんだリンネルを着けており、見えるだけの皮膚には、長い灰色の毛が生えていた。 アンダーソンは、嫌悪と恐怖の叫びをあげて、突嗟にイェンゼンを、その腕の届かぬところまで引き戻した。するとドアはギイッと締まり、低い薄笑いが聞えた。 イェンゼンはなにも見なかったのだが、アンダーソンが急いで、彼がどんな危険を冒かしたかを話すと、彼は非常― 130 ―

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